本年度はPITX1のSASP経路への関与をより詳細に明らかにする目的で、①PITX1の下流で機能する遺伝子の解析、②Pitx1 CKOマウスの作製および③PITX1発現に関わる化合物の同定を目指した研究を行った。 ①については、分子シグナル伝達系におけるPITX1の下流遺伝子を特定するために、FLAGタグによるプルダウン解析に加えて、遺伝子活性化マーカーであるH3K27アセチル化抗体によるChIP-seq法によって網羅的な解析を試みた。その結果、IL-6とIL-8の発現を正に制御する遺伝子Aの発現上昇と、負に制御する遺伝子Bを候補として獲得した。次に、より直接的なPITX1によるSASP経路への関与を解析するために、メラノーマ細胞株A2058へPITX1を強制発現する実験を行った結果、遺伝子Aの発現上昇、遺伝子Bの発現低下とともにIL-6およびIL-8の発現上昇と細胞老化マーカーであるp16とp21の発現上昇が認められた。以上の結果から、SASPとPITX1を結ぶ新規分子経路の存在が示された。 ②については、文部科学省の動物作製支援のもと、Cre/loxPによって欠損させることできるマウスES細胞(Pitx1 CKO ES細胞)を樹立し、3匹状態の良いキメラマウスが得られた。この内2匹から受精卵を作製し、さらにこの受精卵にFlp mRNAをエレクトロポレーションによって導入した。続いて、ICRの仮親に移植することで、Pitx1 CKOアレルをもつマウス雌5匹と雄2匹を作成できた。Creマウスと掛け合わせてPitx1 CKOマウスの作製を行っている。 ③PITX1機能促進に関わる化合物の同定 データベースおよび文献検索からソラフィニブおよびレゴラフィニブを、PITX1の発現を誘導しうる低分子化合物として同定した。現在、実際にPITX1の発現を変化させるかどうか検討を行っている。
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