研究課題/領域番号 |
15K08305
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
古米 亮平 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 客員研究員 (30450414)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 神経科学 / 生理学 / 脳神経疾患 / 行動学 |
研究実績の概要 |
ステップ1:Ube3aとIRFの二因子間相互作用の分子機構の解明。 (1)免疫沈降法により二つの因子はin vivoで相互作用すること。 (2)IRF結合サイトを含んだルシフェラーゼリポーターアッセイにより、IRF1転写活性がUbe3aにより活性化され、酵素活性(=ユビキチン化)のない変異体Ube3aによっては部分的にしか影響がないことをすでに見出している。そこで次は、具体的にUbe3aがIRFと相互作用して転写を活性化している分子メカニズムを明らかにする。単純に考えれば、Ube3aがIRF自身またはその結合因子をユビキチン化修飾することが転写活性化に繋がっていると予想できる。一般的に核内受容体などによる転写活性化に効率的なユビキチン・プロテアソーム蛋白質分解が必用であることが知られており(プロモータークリアランス)、ユビキチン化酵素が転写複合体に含まれる例は多い。また、ユビキチン化修飾は通常は蛋白質分解シグナルだが、特定の蛋白質の安定化や活性化にも関与することも分かっている。そこで、野生型およびアンジェルマン症候群モデルマウスの脳において、ウェスタンブロッティングによるIRF関連蛋白質群の安定性や修飾、免疫沈降法により蛋白・蛋白間相互作用 、クロマチン免疫沈降法(ChIP)によるIRFのリクルートされたプロモーター領域における蛋白質群の動態などを比較することにより分子機構の詳細を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HEK293細胞にUBE3A及びIRFを発現させて免疫沈降法で結合をみたところ、IRF1及びIRF2とUBE3Aは結合していることを明らかにした。またUBE3AがIRFの転写活性に関与するかを調べるためにレポーターアッセイを行った。Neuro2a細胞においてUBE3AによるIRF転写活性の上昇が見られた。IRF1及びIRF3を発現すると転写活性の上昇が見られたが、IRF2, IRF7, IRF9では転写活性が見られなかった。UBE3Aを加えるとIRF1, 2, 3, 7の活性が上昇した。これらの結果から、UBE3AはIRFによる転写にポジティブに働くことを見いだした。
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今後の研究の推進方策 |
ステップ1、2からUbe3aを失うことによって引き起こされる脳内の異常についての分子的知見が得られているはずである。そこで、アンジェルマン症候群の病状回復に寄与する可能性のある因子(例えば、特定遺伝子の過剰発現または発現抑制、あるいは免疫抑制剤のような低分子化合物)を脳へインジェクションし、病状をレスキューすることができる因子をスクリ-ニングする。病状の評価系については、アンジェルマン症候群モデルマウスの表現型が非常に詳しく研究されているのでそれを参考にする。個体レベルの表現型としては、運動機能の顕著な低下・学習機能の低下の他に、てんかん誘導・脳波の異常・超音波発生の変化などが知られる。また、細胞レベルでは、シナプス可塑性の低下・スパイン(棘突起)形態の異常の他、皮質回路成熟の異常・ミトコンドリア機能の低下・興奮/抑制バランスの不均衡性などがある(Jiang et al. Neuron 1998 Miura et al. Neurobiol Dis 2002, Jiang et al. plos One 2010, Dindot et al. Hum Mol Genet 2008, Yoshihiro et al. Nat Neurosci. 2009, Su et al. Neurosci Lett 2011, Wallance et al. neuron 2012)。これらのうち、最も顕著な差を示す運動機能の低下の測定は、rotarod test(回転する棒の上をマウスに走らせて、落下するまでの時間を計測する)によって最も簡便に評価出来る。より専門的な解析として、シナプス可塑性を測定するための電気生理検査機や、in vivoにおける神経細胞のスパイン形態観察するための二光子顕微鏡が考えられ、これらはともに申請者の所属する研究室においてすでに現在稼働している状態にある。
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次年度使用額が生じた理由 |
アンジェルマン症候群責任遺伝子産物Ube3aの新たな転写制御機構を解析する中で標的遺伝子としてIRF2を同定した。Ube3aとIRF2の機能連関の解析のためにIRF2ノックアウトマウスの使用を予定していたが、ノックアウトマウスの繁殖能力が弱いという性質もあり、維持・繁殖に予想以上の時間を要してしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
上記IRF2ノックアウトマウスを用いて、網羅的行動解析及びその脳内シグナルの分子細胞生物学的解析に関わる消耗品・試薬等に使用予定である。
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