研究課題/領域番号 |
15K08307
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
西田 純 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 助教 (00361981)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロRNA / がん |
研究実績の概要 |
Notchは生体の発生や細胞の分化に機能しているシグナル分子群である。私達はNotchシグナルが制御するマイクロRNAを検索し、miR449aを見いだした。近年の研究からmiR449aの発現とがん発生の関連がいくつか報告されている。例えば、肺がんや胃がん患者のがん組織においてmiR449aの発現量が正常組織に比べ低下しており、その発現量ががんの悪性度と相関している事が明らかとされた。また、これらの報告では、in vitroの解析によりmiR449aがp53経路の活性化やサイクリン依存キナーゼ6の発現調節を行っている事が明らかにされ、miR449aの発現低下ががん発生に関与する事が示唆された。しかしながらこれら報告はin vitroの解析を基にしたものであり、miR449aが生体内でがん化に関与しているかは未だ不明であり、その分子メカニズムも明らかになっていない。 私達は大腸がん患者のがん組織におけるmiR449aの発現を解析し、前述の報告と同様に悪性度が高いがんでmiR449aの発現が低い事を明らかにした。私達はmiR449a欠損マウスを樹立し、AOM/DSS誘導性大腸がんモデルを用い、miR449aとがん化の関連について解析をした。その結果、miR449a欠損マウスでは野生型マウスに比べ多くの大腸がんが発生した。さらに、免疫組織化学染色の結果、miR449a欠損マウスでは野生型と比べ大腸の陰窩の基底部細胞の増殖促進が認められた。マウス大腸組織mRNAのマイクロアレイ解析を行った結果、miR449a欠損マウスではがん抑制遺伝子の発現が野生型と比べ25%程度まで低下していた。マウス大腸癌細胞株CT26にmiR449aを強制発現させると前がん遺伝子の発現の低下が見られた。これらの事からmiR449aはがん関連遺伝子の発現を調節する事により細胞のがん化の抑制に働く事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
miR449a発現調節機構の解析 miR449aはCDC20Bの第二イントロンに存在する。そこで、CDC20Bのプロモーター領域の解析を行った。miR449aはNotchシグナルによって発現が制御され、CDC20Bプロモーター領域にはNotchによる転写制御を司る転写因子Rbpjの結合配列が転写開始点上流約450bp及び11kbpに存在する。そこで、ChIPアッセイによりRbpjがそれら結合配列に結合しているかを解析した。マウス脾細胞を調製し、1%パラホルムアルデヒドで固定後ソニケーションによりDNAを断片化し、抗Rbpj抗体を用い免疫沈降を行った。得られたサンプルに含まれる結合領域ゲノムDNAをリアルタイムPCRにより検出した結果、それら結合配列へのRbpjの結合は認められなかった。この結果より、Notch/Rbpj複合体は直接miR449aの発現調節をしている訳ではなく、他の因子を介して調節している可能性が示唆された。 miR449a欠損による免疫系細胞への影響 がんが発生し増殖していく過程において、免疫系細胞はそれを抑制するように働く。そこで、miR449aの免疫系細胞の分化への影響を解析した。野生型及びmiR449a欠損マウスの脾細胞を調製し、それらに含まれるT細胞、B細胞、NK細胞の割合を解析した。さらに、CD4+T細胞、CD8+T細胞、辺縁帯B細胞、樹状細胞などについても解析した。しかしながら、それら細胞について野生型とmiR449a欠損マウスの間に有為な差は認められなかった。また、血清中に含まれるイムノグロブリンの量についても解析を行ったが、両者に有為な差は認められなかった。これらの事からmiR449aの欠損は免疫系細胞の分化には大きな影響を及ぼさない事が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
プロテオーム解析を用いた新規miR449aターゲット分子の検索 野生型及びmiR449a欠損マウスの大腸組織から細胞抽出液を調製し、二次元電気泳動を用いたプロテオーム解析を行いmiR449aのターゲット分子を検索する。これら解析から、マイクロアレイでは検出されなかったターゲット分子の候補を絞り込む。培養細胞にmiR449aを強制発現もしくは発現抑制させ、その発現が抑制されるかウエスタンブロットやRT-PCR法などで確認する。 大腸がん移植モデルを用いたmiR449a及びそのターゲット分子のがん形成への関与 大腸がん移植実験ではmiR449a又は空ベクターを導入した細胞株を各2クローンずつ用いたが、クローン間の差が大きく、有為な差は見られなかった。原因として、単クローン樹立の間に細胞の形質が変化した可能性が考えられる。用いるクローンの数を増やし解析する事によりその問題が改善されると考えられる。また、形成したがんを回収し、その大きさや細胞の分化度、組織への浸潤など組織学的に解析し、がん形成に対するmiR449aの働きを解析する。また、miR449aのターゲット分子についても同様に解析する。 大腸がん肝転移モデルを用いたmiR449a及びそのターゲット分子のがん転移への関与 がんの悪性度を評価する際、その組織浸潤能や転移能も重要な因子であると考えられる。大腸がんは肝臓への転移がよく見られ、それを評価するための大腸がん肝転移マウスモデルが樹立されている。その実験系を用い、miR449aのがん転移に対する働きを解析する。大腸がん細胞にmiR449aを強制発現又はノックダウンし、それら細胞を脾臓内へ移植し、肝臓への転移を誘導する。肝臓組織を回収し、がんの大きさや細胞の分化度、組織への浸潤など組織学的に解析し、がん転移に対するmiR449aの働きを解析する。
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