Notchは生体の発生や細胞の分化に機能しているシグナル分子群である。私達はNotchシグナルが制御するマイクロRNAを検索し、miR449aを見いだした。近年、miR449aの発現とがん発生の関連がいくつか報告されている。例えば、肺がんや胃がん患者のがん組織においてmiR449aの発現量低下ががんの悪性度と相関している事が明らかとされた。また、in vitroの解析によりmiR449aがp53経路の活性化やCDK6の発現調節を行うことが明らかとなり、miR449aとがん発生の関連が示唆された。しかしながらこれら報告はin vitro解析を基にしており、miR449aが生体内でがん化に関与しているかは未だ不明であり、その分子メカニズムも明らかになっていない。 私達は前年度までに、 miR449a欠損マウスでは野生型マウスに比べ多くの大腸がんが発生するが、がんの除去に働く免疫系細胞の分化には影響がない事を明らかにした。今年度更なる解析の結果、AOM/DSS処理したmiR449a欠損マウスでは大腸上皮細胞の増殖が促進される事を明らかにした。さらに、AOM/DSS誘導性大腸がん組織を回収し、DNAマイクロアレイ解析を行った結果、miR449a欠損マウス大腸がん組織ではがん抑制因子MLH1の発現が減少する事が明らかとなった。 これまでの結果から、私達はヒト大腸がんにおいてもmiR449aの発現量とがんの悪性度の関連性を明らかとし、miR449a欠損マウスの解析からin vivoにおけるmiR449a発現消失と大腸がん悪性化との関連性を明らかとした。また、miR449aの発現消失はがん抑制遺伝子MLH1の発現低下を誘導し、大腸上皮細胞の細胞分裂を促進する事を明らかとした。これら解析から、miR449a発現減少によるがん悪性化の分子メカニズムの一端を明らかにできたと考えられる。
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