研究実績の概要 |
上皮細胞に由来するがん細胞は、上皮間葉転換によって間葉化することで血管・リンパ管へと移行して全身を巡り、転移先で再び上皮化することによって、遠隔転移を起こすことが考えられている。しかし、上皮と間葉の可塑性を制御する分子機構や上皮状態と間葉状態の細胞の特性は今だに不明な点が多く、さらなる研究によって、がんの転移を抑制するポイントを発見できる可能性がある。申請者は、乳腺上皮細胞MCF10Aの解析から、増殖因子の使い分けによって上皮状態と間葉状態を相互に転換できる実験系を構築し、MCF10Aの間葉としての特性発揮にリン酸化酵素RSK2が重要な役割を果たすという結果を得ている。昨年度はRSK2と相互作用する分子群の同定を試みたが、キナーゼという特性から、他の因子との相互作用が一過的な可能性があり、相互作用因子の同定に至らなかったため、本年度は近傍標識酵素が利用できる実験系の確立を行なった。これまでに近傍酵素BirA, APEXをRSK2のC末に融合したコンストラクトを構築した。これら酵素は近傍20nmに存在するタンパク質をビオチン化する活性を持つが、実際に実験を行なったところ、ビオチン化効率が予想より低かった。そこで2018年に発表されたTurboIDというBirA改変酵素を用いて同様の実験を行なったところ、短時間のラベルで十分なビオチン化が検出できた。現在、レンチウイルス ベクターでTurboIDを発現する細胞の樹立を行なっており、今後、RSK2と相互作用する分子の同定を元に、機能解析を進めることが可能になった。
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