研究実績の概要 |
好中球は、私たちの体を循環する末梢白血球の約6割を占める細胞であり、その役割は体内に侵入した真菌や細菌などの外来微生物を、貪食し殺菌することである。私たちの体は常に外界からの微生物の侵入にさらされており、好中球が10分の1に減少すると無菌室に入らなければ生きていくことができない。このように好中球がヒトの生命を守るためには、ケモタキシス(chemotaxis)により微生物の侵入部位/炎症部位へ素早く到達することが不可欠である。しかしながらどのように好中球が「正確に」目的地にたどり着くのか、その分子機構は不明な点が多い。申請者は最近、好中球の遊走方向を制御するGPCR下流の新しいシグナル経路を明らかにした (Kamakura et al., Dev. Cell, 2013)。本研究は、この新規なGPCRシグナルの最も下流で機能するキナーゼ (atypical protein kinase C: aPKC) の基質を同定し、好中球が遊走方向を制御するための分子機構を明らかにすることを目的として行った。平成29年度は、昨年度までに見出していた基質候補のタンパク質のうち、細胞骨格の制御に重要なキナーゼについての解析を重点的に進めた。昨年度までにこのキナーゼとaPKC-Par6が直接結合することを見出していたが、今年度はその両者の結合に必要なタンパク質領域を明らかにした。さらに、aPKCによってこのキナーゼが直接リン酸化されることを明らかにした。このキナーゼの特異的な阻害剤を用いてキナーゼ活性を阻害すると、好中球様細胞株PLB-985の C5a (補体由来成分である走化性因子) に対するケモタキシスの効率が著しく低下すること等を見出した。
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