研究課題/領域番号 |
15K08310
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
市川 朝永 宮崎大学, 医学部, 助教 (80586230)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 癌 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
成人T細胞白血病リンパ腫ATL(Adult T-cell leukemia/lymphoma)はヒトTリンパ好性ウイルス1型HTLV-1(Human T cell Leukemia Virus Type1)の感染によって引き起こされる白血病である。発症後の平均生存期間が約1年と非常に予後が悪く、根本的な治療法が確立されておらず、緊急的なATL診断、治療法の確立が期待されている。
がん抑制遺伝子PTENの不活性化は、多くの腫瘍でPI3K/AKT情報伝達系の異常亢進を引き起こし、がんの発症・進展に関与している。その原因として、ゲノム(点突然変異、欠失)やエピジェネティック(DNAメチル化)異常による発現低下と共に、近年リン酸化修飾による不活性化機構が言われてきたがその分子機構は不明であった。これまでの研究でPTEN脱リン酸化機構として新規がん抑制遺伝子NDRG2の同定および機能解析を行ってきた。NDRG2は脱リン酸化酵素(フォスファターゼ)であるPP2Aと複合体を形成し、PTENの脱リン酸化に関与していた。今回、我々はPTENリン酸化酵素(キナーゼ)の候補としてSerine/Threonine キナーゼ領域を有したSCYL2 (SCY1-like protein 2)を同定し、機能解析を行なっている。
SCYL2は細胞膜上のClathrinと相互作用し、endocytosisに関与していることが示唆されている。ClathrinがPI3K/AKT情報伝達系を活性化することが知られており、SCYL2-Clathrinが情報伝達系活性化に重要な役割を果たしている可能性がある。しかし、腫瘍のような病的状態における発現量の変化および機能については詳しく解析されておらず、また、遺伝子改変動物も存在せず、生理的な機能についても不明な点が多い。SCYL2の機能解析を行うことによって、PTENリン酸化-PI3K/AKT情報伝達系亢進-がん発症機構を明らかとし、また、その他の機能も検討し生理的および病的な状態におけるSCYL2の機能を明らかとし、新規診断治療法の開発につなげることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATLではPTENのゲノム変異はなく発現が保たれ、かつPTEN―C-tail領域のSerine380、Threonine382、Threonine383(STT)のリン酸化が亢進していた。このリン酸化はPTEN酵素活性を不活性化し、ATLにおける下流のAKTリン酸化および情報伝達系の恒常的活性化を明らかにした。
SCYL2はPTENに結合しキナーゼ領域を有し、さらにSCYL2発現低下させたATL細胞株ではPTEN/AKTリン酸化および細胞増殖が減少していた。大腸菌および細胞から精製したタンパク質を使って in vitroキナーゼアッセイを行った結果、SCYL2自身にPTENをリン酸化するキナーゼ活性がある可能性を示唆した。
SCYL2は細胞膜、細胞質だけでなく核にも局在していた。他の情報伝達系NF-kB活性を制御し、PTENリン酸化以外の機能を有していることを示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
SCYL2はATLのみならず各種がんで発現が増加している可能性がある。IFNによって発現が調節されていると言われているが、どのように発現が制御されているのか検討する。
現在まで、SCYL2の遺伝子改変動物は作製されておらず、生理的および病的なSCYL2の機能については不明であった。そこで、SCYL2発現を変化させた細胞株の免疫不全マウスへの移植、KOおよびTgマウスを作製し、解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りに進み、次年度に残すため
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次年度使用額の使用計画 |
動物使用および物品費
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