研究課題
成人T細胞白血病リンパ腫ATL(Adult T-cell leukemia/lymphoma)はヒトTリンパ好性ウイルス1型HTLV-1(Human T cell Leukemia Virus Type1)の感染によって引き起こされる白血病である。ATL病系の中で急性型およびリンパ腫型は発症後の平均生存期間が約1年と非常に予後が悪く、根本的な治療法が確立されていない。また新規HTLV-1キャリアは減少しているものの、人口の高齢化に伴い逆にATLおよびその関連疾患の発症者数は増加しており、緊急的なATL診断、治療法の確立が期待されている。ATLではがん抑制遺伝子PTENのC-tail領域のSerine380、Threonine382、Threonine383(STT)のリン酸化が亢進し、このリン酸化はPTEN酵素活性を不活性化し、下流のAKTリン酸化および情報伝達系の恒常的活性化を惹起し、ATLを含むさまざまな腫瘍の発症進展に関与することを明らかとした。PTENの不活性化の原因として、ゲノム(点突然変異、欠失)やエピジェネティック(DNAメチル化)異常による発現低下と共に、近年リン酸化修飾による不活性化機構が言われてきたがその分子機構は不明であった。これまでの研究でPTEN脱リン酸化機構としてがん抑制遺伝子NDRG2の同定および機能解析を行ってきた。NDRG2は脱リン酸化酵素(フォスファターゼ)であるPP2AをPTENにリクルートすることによりPTENのSTT領域を脱リン酸化することを明らかにした。今回、我々はPTENリン酸化酵素(キナーゼ)の候補としてSCYL2を同定し機能解析を行うことで、PTENによるPI3K/AKT情報伝達系の制御機構を明らかにし、PTENリン酸化酵素を標的とした新規診断治療法の開発につなげられると考えている。
2: おおむね順調に進展している
1.SCYL2発現調節機構の解析:ATL患者検体および細胞株においてSCYL2発現が亢進していることを明らかにした。さらに、HTLV1のウイルスタンパク質であるTaxによって発現が増強されることを示唆した。2.in vivoにおけるSCYL2の役割の解析:SCYL2発現低下ATL細胞株を免疫不全マウスの皮下に移植して、腫瘍形成能を検討すると有意に形成能が低下していた。SCYL2発現低下ATL細胞株の腫瘍ではAKTおよびPTENリン酸化が低下していることから、SCYL2はPTENリン酸化制御を介して腫瘍形成に関与していることを示唆した。
1.SCYL2発現調節機構の解析:さまざまなサイトカイン(IFN、炎症性サイトカイン-IL6、TNFa等)およびストレス応答(低酸素、酸化ストレス、ウイルス感染等)で発現が変化するか検討する。mRNA増加の場合、ゲノムの増幅、突然変異を検索し、promoter領域のどこが重要なのかdeletion constructを用いて検討する。結合配列が決定したら、mutantを作製して検討を行う。タンパク質安定化によってSCYL2の発現が増加した場合、SCYL2結合タンパク質からE3 ligase等の候補を同定し解析を行う。2.in vivoにおけるSCYL2の役割の解析:SCYL2 KOおよびTgマウスの解析を行う。
端数のため次年度で調節
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件)
Biochem Biophys Res Commun
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