研究課題
筋ジストロフィーは遺伝性に筋力低下を起こす疾患であり、細胞外マトリックスと細胞内のアクチンを結びつけるジストログリカン複合体を構成するたんぱく質の遺伝的異常により惹起される。我々はSIRT1の活性化がマウスのDuchenne型モデルであるmdxマウスの骨格筋および心筋の病態を著しく改善することを世界で初めて2011年に見出した。このメカニズムには酸化ストレス(ROS)を亢進させるNoxファミリーの発現減少、ROSを増加させるTGFの下流でのシグナル低下、さらに骨格筋では筋タイプが遅筋型に変わることが関与すること、さらに、アセチル化酵素p300をユビキチン化して減少させることがその背景にあることを見出したが、その他の原因も存在することが考えられた。27年度の研究では(1) 筋ジストロフィー骨格筋や心筋ではオートファジーの機能が著しく低下していること、オートファジーの低下によって障害ミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)が抑制されていることを見出した。障害ミトコンドリアは細胞内ROSの最も大きな発生原因であるため、マイトファジー低下がジストロフィー筋肉の持つROSの主たる原因である可能性を見出した。(2) 札幌医科大学付属病院において、Duchenne型、Becker型、福山型の筋ジストロフィー患者さん合計11名に対して、レスベラトロールの投与を行う臨床研究を行った。データは現在解析中であるが、半数以上で、指のつまむ力が2倍以上に、肩を上げる力が2倍以上になったことを確認した。
1: 当初の計画以上に進展している
(1) 新しい筋ジストロフィーの組織障害メカニズムとして異常ミトコンドリアによるROS産生があり、SIRT1の活性化は異常ミトコンドリアを処理するメカニズムであるマイトファジーを亢進させることにより、組織のROSを低下させて組織と細胞の障害を低減させるという全く新しいメカニズムを見出した。(2) 臨床研究としてレスベラトロールを筋ジストロフィーの患者さん11名に投与して、筋力の向上を観察した。さらに、副作用としては下痢を3名に観察したものの、投与量を減らすことにより回復を見た。レスベラトロールが全く新しい筋ジストロフィーの治療薬である可能性を世界で初めて提示することができた。
(1) SIRT1活性化がなぜ筋ジストロフィーに対して有効となるか、マイトファジーを亢進させる機能の詳細を今後検討する。(2) 骨格筋および心筋のSIRT1ノックアウトマウスを用いて、SIRT1の機能を明らかにすることにより、筋ジストロフィーでのSIRT1活性化による筋保護作用を解明する。(3) 臨床研究によるSIRT1活性化薬レスベラトロールの投与効果の詳細について、さらに深く解析して、効果を分析する。
人件費を計上していたが、研究に参画する人材をみいだすことができず、人件費を使用していない。また、旅費の一部が研究進行の都合上未使用となった。
今後適正に使用していく計画である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
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