本研究はSIRT1活性化薬のレスベラトロールの筋ジストロフィーへの治療効果を分子レベルで解明するとともにレスベラトロールを用いたヒト筋ジストロフィー症の臨床研究を行うことを目的とした。 (1)レスベラトロールの分子機能 細胞内酸化ストレス(ROS)の90%はミトコンドリアに由来すると言われている。 SIRT1がオートファジー促進分子であることから、オートファジー、特にミトコンドリアオートファジーについて検討した。C2C12筋芽細胞を用いて、ミトコンドリア呼吸阻害薬であるアンチマイシンA投与による細胞内の ROS上昇をレスベラトロールは抑制した。C2C12細胞ではレスベラトロールは障害されたミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)を促してROSを低下させた。このROS低下作用はオートファジーに必要な分子であるAtg5のノックダウンやマイトファジーに必要なPink1のノックダウンにより阻害された。また、ジストロフィンを欠損するmdxマウスは骨格筋・心筋のオートファジーが低下しており、レスベラトロールを投与すると、オートファジーが活性化し、マイトファジー活性化とROS減少を観察した。また、レスベラトロール投与は血中クレアチンキナーゼを低下させるばかりでなく、運動能を亢進させた。以上のことからレスベラトロールはマイトファジーを促進することによりROSを低下させ、筋ジストロフィーに治療効果をもたらすことが考えられた。 (2)レスベラトロールを用いた筋ジストロフィー治療臨床研究 札幌医科大学付属病院で筋ジストロフィー患者11名に市販健康食品のレスベラトロールを投与する臨床研究を行った。レスベラトロールを用量増加法で24週間連続投与する臨床研究を行い、肩甲骨拳上力、肩関節外転力、運動機能評価尺度の有意な上昇を観察した。一方、副作用は一時的な下痢と腹痛が見られたが、いずれも軽度であった。
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