研究実績の概要 |
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:以下IBD)の治療効果目標は臨床的寛解のみな らず、内視鏡で確認する「腸管粘膜治癒」が重要であることが報告されている。これまで我々は大腸筋線維芽細胞由来の細胞培養液からの解析で、Wnt5a蛋白の一部である31個のアミノ酸からなるペプチド(Wnt5aペプチド)が、大腸上皮細胞の再上皮化を促進する活性を有していることを発見しているが、このWnt5aペプチドの大腸上皮細胞に与える効果に関して、平成28年度までの研究実績として、酪酸によるマウス正常大腸上皮細胞(YAMC)でのHSP25発現抑制作用および引き続いて 生じるYAMCの増殖促進作用を明らかとした。 上記の実績は英文論文としてまとめ、2016年8月1日に以下の要領でScietific Reports誌に受領された(Uchiyama K, et al., Sci Rep. 2016 26;6:32094. doi: 10.1038/srep32094.)。 平成29年度の研究実績としては潰瘍性大腸炎患者の大腸粘膜におけるWnt5a mRNA発現とその臨床経過に関して検討した。その結果、Wnt5a mRNA発現と粘膜炎症の程度、内視鏡的粘膜障害は相関したが、臨床経過における再燃の有無に関しては観察期間が短いこともあり有意な相関は得られなかった。細胞実験としては、ヒト大腸上皮細胞株であるCaco-2細胞を用いて透過性を検討したところ、Wnt5aペプチド投与により過酸化水素添加による透過性低下が抑制された。研究期間全体としては計画した結果は予定通り得られ、英文誌にも報告したが、実際の潰瘍性大腸炎患者の臨床経過と粘膜におけるWnt5a発現との関連や、細胞や組織保護効果からみたWnt5aペプチドの作用も予備検討で得られており、今後の検討課題として興味深いと考えられた。
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