研究課題
BLT2は上皮細胞に発現するGタンパク質共役型受容体で、12-HHTと呼ばれる脂肪酸に応答して細胞内にシグナルを伝達する。昨年度、肺炎球菌の産生する毒素性タンパク質Pneumolysin(PLY)の気道内投与により、BLT2欠損マウスのほとんどが30分以内に死亡すること、またその要因が気管支収縮亢進と血管透過性の亢進による肺水腫である可能性が高いことを明らかにした。これらの現象を引き起こしている原因分子を突止める目的で、肺胞洗浄液中に含まれるエイコサノイド類を質量分析計にて一斉定量したところ、PLY投与後すぐに野性型およびBLT2欠損マウス肺で大量のシステニルロイコトリエン類(CysLTs: LTC4・LTD4・LTE4)が産生さていることが明らかとなった。そこで、CysLT受容体(CysLT1)拮抗薬(モンテルカスト)の前投与を行ったところ、野性型とBLT2欠損の両マウスでPLY依存的な気道収縮および血管からの漏出が完全に消失し、BLT2欠損マウスの致死率も改善された。モンテルカストは、気管支喘息やアレルギー性鼻炎を対象として既に認可されている薬剤であるが、本研究によって肺炎致死を改善する薬として使用できる可能性が示唆された。一方、BLT2の高親和性リガンド12-HHTは、シクロオキシゲナーゼ(COX)依存的に産生される脂肪酸であり、NSAIDs(COX阻害薬)によって産生が阻害される。そこで、野性型マウスにNSAIDsの前投与を行ってみたところ、PLY依存的な致死が増悪した。この結果から、NSAIDs投与は肺炎致死を増悪させる可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
PLYの気道内投与による急性肺障害モデルを施行し、野性型マウスでは生存できる濃度のPLY投与によりBLT2欠損マウスのほとんどの個体が死に至ること、またPLY投与で産生されるCysLTsが気道収縮と血管透過性の亢進を招くことが原因であることを明らかにした。更にこの過程で、CysLT1拮抗薬が肺炎致死の改善薬となり得ること、NSAIDsが増悪因子となり得ることを明らかにした。以上の内容はScientific Reportsに掲載され、おおむね順調に進展しているといえる。
12-HHT/BLT2軸がPLYを用いた急性肺損傷モデルにおいて保護に作用することを明らかにしたものの、詳細なメカニズムについては不明な点も残されている。BLT2の欠損がCysLTsの感受性を亢進させていると考えられるが、その原因は不明であり、細胞レベルで解析することで、作用機序を明らかにしていく予定である。また、BLT2は腸管上皮にも発現していることから、12-HHT/BLT2軸の腸管における役割についても明らかにしていく予定である。
ほぼ予定通り研究を遂行し、大部分は試薬等の消耗品に使用した。しかし、最終年度に遺伝子改変マウスの凍結胚保存を行う予定が出て来たため、一部は来年度に使用することとした。
余剰分の193,107円は来年度分と合わせて消耗品および旅費として使用する予定で、研究を終了する時には本研究に使用した遺伝子改変マウスの凍結胚保存を行う予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Sci Rep
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doi:10.1038/srep34560
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http://plaza.umin.ac.jp/j_bio/Biochem1/Top.html