正常上皮細胞の細胞内pHは厳密に制御されているが、がん細胞では細胞内外pHの異常が悪性化に寄与している。IRBITファミリー(IRBIT/Long-IRBIT)は、種々のイオントランスポーターと結合し、細胞内pHを制御していることが知られている。本研究でマウス及びヒトメラノーマ細胞は転移能が高い細胞株ほどLong-IRBITの発現が高くなることを見出し、Long-IRBITが転移に関わる重要な役割を持っている可能性が示唆された。そこでがん細胞におけるIRBITファミリーのイオントランスポーターを介した細胞移動の制御機構を明らかにすることを目的とした。 【方法】IRBITファミリー結合タンパク質を同定するためにマススペクトロメトリー解析を行い、同定したタンパク質の結合能を免疫沈降法及びPull downアッセイを用いて検討した。細胞移動能を検討するためにIRBITファミリー及び同定したタンパク質のsiRNAを用いてB16-BL6細胞に対しノックダウンをして、スクラッチアッセイを行った。細胞内pH測定には、pH感受性蛍光プローブであるSNARF-1-AMを用い共焦点レーザー顕微鏡にて測定を行った。 【結果・考察】マススペクトロメトリー解析によりIRBITファミリー結合タンパク質として陰イオン交換体を同定した。Long-IRBIT及び陰イオン交換体ノックダウン細胞はともに細胞移動能が顕著に低下していた。また免疫沈降及びPull downにより、Long-IRBITと陰イオン交換体の直接的な結合を確認し、詳細な結合ドメインを同定した。さらにIRBITファミリーの陰イオン交換能の依存性を検討するために、Long-IRBITノックダウン細胞の細胞内pHを測定したところ、有意な陰イオン交換能が減少し、一方Long-IRBIT過剰発現細胞では有意な陰イオン交換能の増加を確認した。以上のことからLong-IRBITは陰イオン交換体を介して細胞移動を制御している可能性が示唆された。
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