本研究の目的は、骨髄異形成症候群(MDS)に高頻度で見られる20番染色体長腕欠失(20q-)を手掛かりに共通欠失領域から疾患関連遺伝子候補を単離し、その異常の臨床的、生物学的意義を明らかにすることである。以前の研究成果から共通欠失領域に存在する遺伝子の中で、次世代シークエンサーを用いた解析でMDS症例において変異が認められたNCOA3遺伝子および20q-を伴う症例においてハプロ不全による発現低下に加えて、20q-を伴わない症例でも発現低下が見られたPTPN1遺伝子とPLCG1遺伝子について、臨床的および生物学的意義の検討を行ってきた。H28年度までの研究成果において、NCOA3遺伝子に関しては、多数のMDSサンプル(約400検体)で変異解析で、予想より変異頻度が低く、また変異箇所も広範囲に及んだ、そのため生物学的解析は回避した。一方PTPN1遺伝子およびPLCG1遺伝子に関しては多数の骨髄臨床検体(250)を用いた発現解析で発現低下が認められ、発現低下とMDS臨床病型や病態進行との関連が示された。さらに予後との関連を認め、予後予測のバイオマーカーとなりうる可能性が示された。さらに、臨床検体を低メチル化薬で処理することにより、これら二つの遺伝子発現が誘導されることから、染色体欠失以外の発現低下のメカニズムとして、MDSで異常が示されているメチル化の関与が示唆された。続いてこれら二つの遺伝子発現低下の生物学的意義を検討を開始した。本年度はPTPN1の過剰発現が、細胞増殖抑制と赤芽球系への分化を来すことを見出し、それが、赤芽球の増殖分化に中心的役割を果たすEPO-Rのシグナル伝達系において、STAT5の脱リン酸化を介して下流にあるBCL-xLなどの発現低下をもたらし、増殖抑制を生じること、一方で分化に関与するGATA-1遺伝子の発現を誘導し、分化に導くことを示した。
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