研究課題/領域番号 |
15K08325
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
村上 優子 (渡並優子) 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学部, 主任研究員 (70405174)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 悪性中皮腫 / 合成致死 / DNA修復 |
研究実績の概要 |
前年度までに、Web上に公開されている悪性中皮腫患者のがん組織の発現アレイデータ及び予後データの再解析からBAP1遺伝子変異と合成致死表現型をを示すと考えられるDNA損傷・修復に関わる遺伝子を候補遺伝子として抽出した(1)。 その一方、BAP1変異がある悪性中皮腫細胞株(NCI-H28株)にBAP1(BAP1-IRES-Venus)及びコントロールとしてVenusを導入した安定発現株をそれぞれ作成した(H28-BAP1株、H28-Venus株)。それらの株及び親株を用いて細胞増殖アッセイを行ったところ、それぞれの増殖速度に差はなかった。H28-BAP1株とH28-Venusを用いて、ゲノムワイドのshRNAライブラリーを用いた、BAP1変異と合成致死表現型を示す遺伝子のスクリーニングを行った。そのデータから得られた候補遺伝子のうち、DNA損傷修復に関与する遺伝子を抽出した(2)。(1)を用いて抽出した遺伝子と(2)を用いて抽出した遺伝子を比較し、共通するものを最終的な候補遺伝子とした。候補遺伝子について、H28-BAP1株、H28-Venus株を用いてそれぞれ個別にshRNAを用いたノックダウンを行う、あるいは阻害剤が存在するものに関しては阻害剤を用いて合成致死表現型を示すかどうかの確認を行った。現在までのところ、4つの遺伝子が個別にノックダウンしても同様の表現型を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
悪性中皮腫患者のがん組織の発現アレイデータ及び予後データの再解析から得られた、DNA損傷修復に関連する候補遺伝子と共通する因子を抽出した。また、悪性中皮腫細胞株を用いてゲノムワイドのshRNAスクリーニングを実施し、BAP1変異と合成致死表現型を示す、DNA損傷修復に関連する因子を抽出した。 それらの結果を総合し、どちらにも当てはまる候補遺伝子を選び出し、そのうちの一部を個別にノックダウンすることで4つの候補遺伝子を確定させた。 以上の進行状況は申請書の計画通りにほぼ進行しているため、「おおむね順調に進行している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の進捗状況を受け、平成28年度は以下のように研究課題を推進していく予定である。 1)平成27年度に引き続き、まだ個別の確認をしていない候補遺伝子について、BAP1変異と合成致死表現型を示すかどうかの確認を続ける。2)悪性中皮腫以外のBAP1変異が特徴的に見られるがんについて、悪性中皮腫で得られた候補遺伝子の発現が予後に影響するかどうかをWeb上に公開されたデータ(TCGAなど)を用いて解析を行う。3)平成27年度中に個別にノックダウンしてもBAP1変異と合成致死表現型を示すことが確認された4つの遺伝子については、合成致死表現型を示す分子機構について解析を行う。4)解析を行っている候補遺伝子はいずれもDNA損傷・修復に関わるものであるため、候補遺伝子同士の関係についても解析を行う。5)BAP1自身がDNA損傷・修復に関わる因子であると考えられるため、現在までDNA損傷・修復に直接関わる因子として報告がない候補遺伝子群についても個別の確認を行うとともに、DNA損傷・修復との関わりについて解析を行う。6)候補遺伝子群に関して、新規分子診断マーカーとしての有用性を検討するとともに、この遺伝子が治療標的となるかどうかin vitro、in vivo モデルを用いて検討する。7)候補遺伝子産物の阻害剤が存在しなかった場合、低分子化合物ライブラリの提供を受け、候補遺伝子産物の阻害剤のスクリーニングを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
shRNAスクリーニングについては、次世代シークエンスの実験に慣れておらず、一部実験した結果を見てから次の実験を行ったこと、また、結果の解析にも時間がかかった。また、shRNAスクリーニングの結果と悪性中皮腫患者がん組織の発現アレイデータ及び予後データから得られた結果を比較するのにも不慣れため時間がかかった。候補遺伝子が得られてからは、個別にノックダウンしていく実験を行ったが、実際に実験をすることが例年に比べて少ない時期があったため、助成金の使用が少ない時期が生じ、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
候補遺伝子の解析を続けること、及び合成致死表現型を示す分子機構を解析するため、一般試薬、抗体、培地などの購入に用いる。また、情報収集及びディスカッションのため、Gordon Research Conference (Genome Instability, 2015.7.24-29, Hong Kong) に参加するため、その参加費及び渡航費、宿泊費に使用する予定である。
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