遺伝性末梢神経障害であるCharcot-Marie-Tooth病(CMT)のうち、中間型CMTの日本人家系におけるゲノム解析の結果から、疾患に特異的な5塩基の欠失を見いだした。その欠失は、ミトコンドリア内膜にある呼吸鎖複合体のひとつ、シトクロムcオキシダーゼ(COX;呼吸鎖複合体IV)のサブユニットをコードする遺伝子COX6A1のスプライシング制御領域にあり、発症者の末梢血においてCOX6A1の発現量が低下していること、さらには発症者由来の不死化B細胞株における、COX活性の低下を見いだした。また、COX6A1ノックアウトマウスが歩行障害を示し、坐骨神経における神経伝導速度の低下や、神経原性の筋萎縮に加えて、肝組織ミトコンドリア画分におけるCOX活性の低下がみられることを報告した。これらの結果から、COX6A1の欠損がCOXの活性低下につながり、ミトコンドリア呼吸鎖の機能不全を引き起こしている可能性が考えられるが、CMTの表現型との関係については不明のままであった。 一方、COX欠損を伴うミトコンドリア病について、これまでに複数の遺伝子における突然変異がその原因として報告されているが、そのほとんどはCOXのサブユニットではなく、SURF1やSCO2などのアセンブリ因子をコードする遺伝子上に同定されたものであった。それらアセンブリ因子の異常は、Leigh脳症を典型例として広範な組織にわたる重篤な症状を示す場合が多い。このことは、COX6A1が心臓および筋肉を除く幅広い組織で発現しているにもかかわらず、その遺伝子上に突然変異をもつ個体が末梢神経障害のみを示すことと対照的であった。そこで、過酸化水素による酸化ストレスを与えたドパミン神経細胞において遺伝子発現量を調べたところ、ミトコンドリアフェリチンの発現量が増加し、神経細胞の保護機能をもつと考えられることがわかった。
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