研究課題/領域番号 |
15K08330
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
涌井 敬子 信州大学, 学術研究院医学系, 講師 (50324249)
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研究分担者 |
河村 理恵 信州大学, 医学部, 助教(特定雇用) (20735534)
高野 亨子 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (70392420)
福嶋 義光 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (70273084)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / 1細胞解析 / 相同染色体 / RNA-FISH |
研究実績の概要 |
「RNA-FISH法による1細胞発現解析とエピジェネティックメカニズムに関する研究」は,ゲノムの一次構造の変化を伴わないメカニズムが関連遺伝子の発現に影響あるいは示唆されている特定の遺伝性疾患症例について,相同染色体を区別した遺伝子発現をRNA-FISH法により1細胞単位で解析し,新たな知見を得ることをめざしている.実施した内容と結果などについて示す. 1.3色RNA-DNA連続FISH法の確立 X染色体不活化に関わりRNAシグナルが非常に強く観察されることが知られているXIST遺伝子をRNAプローブとした実験系で方法の確立に取り組んだ.一方のX染色体短腕にFISH法で検出可能な微細欠失を有する女性患者を対象とし,RNAシグナルを確認するXIST遺伝子プローブ,両X染色体を認識する不活化を免れる遺伝子のレファランスプローブ,そして正常と異常の染色体を区別する欠失領域のターゲットプローブを,異なる蛍光色素で標識し,XISTのRNA-FISH法後,連続して他2プローブのDNA-FISH法を実施した.そしてこの方法により解析精度が向上することを確認した. 2.11p13構造異常症例の解析 無虹彩症の責任遺伝子であるPAX6プローブのFISH解析で欠失を認めないが,座位する11p13に切断点がある染色体均衡型転座を有する症例について,マイクロアレイ染色体解析でもPAX6にはコピー数異常を認めないこと,約数百kb短腕端部寄りに数百kbのコピー数減少を有することを確認した.また,PAX6のシーケンス変異がないかどうかについてサンガー法にて解析し,既知の病的変異を有しないことを確認した.さらに,PAX6を含むDNAクローンを用いたRNA-FISH法の予備実験で,LCLを用いた解析ではPAX6のRNAシグナルは非常に小さいか確認が困難で,この方法では正確な結果を得ることが難しいことが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
XISTをRNAプローブとして用いた3色RNA-DNA連続FISH法の実験系を確立できたことで,一定の条件が整えば本法を様々な研究に応用できることを確認した. 1.15q11-q13領域の遺伝子発現と核内配置についての解析 本年度の研究目標のひとつとした,15q11-q13領域の遺伝子発現と核内配置についての解析として,遺伝子の片親性発現が疾患発症に影響していることが知られているPrader-Willi症候群・Angelman症候群の15番染色体のインプリンティング領域に座位するSNRPN(父性発現)とUBE3A(母性発現)遺伝子の核内三次元相対距離が,正常人細胞において相同染色体間で差を認め,その差が遺伝子発現状態による可能性を示唆した我々の先行研究の検証にむけた予備実験として,SNRPN/UBE3A RNAシグナルを確認後に連続してSNRPN/UBE3A DNAシグナルを確認するRNA-DNA連続FISH法(RNA-DNA FISH法)を実施した.全体的に予測していた傾向は確認できた.しかし,細胞ごとにシグナルの強度が異なるRNAシグナルの不安定性などのため,目指す検証にはさらなる工夫が必要と考えられた. 2.11p13領域の遺伝子発現と位置効果についての解析 無虹彩症の責任遺伝子であるPAX6プローブのFISH解析で欠失を認めないが,座位する11p13に切断点がある染色体均衡型転座を有する症例について,マイクロアレイ染色体解析とサンガー法による解析を実施し結果を得た.しかし,PAX6を含むDNAクローンを用いたRNA-FISH法の予備実験で,LCLを用いた解析ではPAX6のRNAシグナルは非常に小さいか確認が困難で,今の条件では正確な結果を得ることが難しいことが判明した.今後,異常11番染色体にPAX6のRNAシグナルが検出されないことを検証するために必要となる条件を検討してゆく.
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今後の研究の推進方策 |
我々はこれまでに,自施設で多くの染色体構造異常症例をLCLs(Bリンパ芽球様細胞株)として樹立・保存してきたこともあり,本研究の実施に際し対象細胞としてLCLsを視野にいれてきた.XISTをRNAプローブとした実験系においては,LCLsによる解析法として確立できた3色RNA-DNA連続FISH法であるが,RNAプローブとして用いたい遺伝子がLCLsで発現が強くないと結果が得られない状況があることが,想定していたことではあるが,今後の課題である. 遺伝子発現と核内配置についての解析は,同細胞の遺伝子間距離を共焦点レーザー顕微鏡で計測することが必要であり,しかも数多くの細胞を解析しなければならないため,解析には相当の労力をかけなければならないことが予想される.しかも不安定なRNAシグナルが確実に確認できるとは限らないことが判明した現状では,予定した解析は現実的とはいえないと考えられるため,戦略を再検討する. 11p13構造異常症例の解析として一番の課題は,やはり解析対象と想定していた細胞であるLCLsでPAX6の発現をRNA-FISH法で確認することの困難さである.PAX6は神経系の細胞での発現は確認されているので,H28年度は手元にある皮膚線維芽細胞株での予備実験を試み,必要に応じて他の神経系の細胞などを入手した解析も考慮してゆきたい.さらに,PAX6のRNA-FISH法のめどがたったときにすぐに11p13構造異常症例の解析にうつれるよう,対象症例における11番染色体上の解析に適したレファランスプローブと正常と異常の染色体を区別するターゲットプローブの選定に取り組む.さらに,本症例には転座と微細欠失の2つの構造異常があることになるので,そのことも意識したプローブデザインの選定と,構造異常とPAX6の発現の関連についての確認法についても慎重に検討して実施したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた,国際誌への論文投稿のため,英文添削や投稿費用にと考えていたが,再現性の確認実験などをしているうちに間に合わなくなってしまったその他の経費が,次年度使用額となった.
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度請求額とあわせ,英文添削や投稿費用,消耗品など,必要な経費に振り分けて使用する.
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備考 |
第10回European Cytogenetics Conferenceにて発表した「Establishment of a single-cell RNA/DNA-FISH method for detecting inactivation patterns of structural X chromosome abnormalities」が,213演題から5演題を選んだポスター賞に選出された.
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