研究課題/領域番号 |
15K08338
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三木 康宏 東北大学, 災害科学国際研究所, 講師 (50451521)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 子宮内膜癌 / コルチゾール / グルココルチコイド受容体 / Annexin A1 / ストレス |
研究実績の概要 |
子宮内膜癌を対象に、コルチゾール受容体であるグルココルチコイド受容体(GR)の発現を免疫組織化学にて評価した。GRは子宮内膜癌の癌細胞での発現は低く、周囲間質の線維芽細胞や炎症細胞に発現が多く認められた。さらにコルチゾールによって誘導される遺伝子(標的遺伝子)として、Annexin A1を見いだし、同様に免疫組織化学での検討を行った。GRと同様にAnnexinA1は癌細胞と間質細胞の両方に発現を認めた。Annexin A1はコルチゾール/GRの標的遺伝子と想定されるため、両者の関係について統計解析を行った。なお、本研究では間質のGRの発現について、線維芽細胞(様細胞)に注目して評価した。その結果、癌細胞においてはGRとAnnexin A1の発現に関連は認められず(p=0.7194)、間質線維芽細胞において両者に有意な関連が認められた(p=0.0031)。さらに癌組織のコルチゾール濃度との関連についても、間質線維芽細胞のAnnexin A1陽性群において有意にコルチゾール濃度が高かった(p=0.0183)。癌細胞のAnnexin A1陽性群においてもコルチゾール濃度が高い傾向が認められた(p=0.0621)。癌組織の間質線維芽細胞は癌関連線維芽細胞(Cancer-Associated Fibroblasts: CAF)と称され、癌の悪性度に大きく関与することが知られている。子宮内膜癌ではCAFにおいてコルチゾールによってAnnexinn A1が誘導され、分泌型Annexain A1がパラクライン的に癌細胞に影響を及ぼしていると示唆される。Annexin A1の癌細胞増殖との関連を示唆する結果も得られており、今後、in vitroでの機能実験にて検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子宮内膜癌におけるコルチゾールによって誘導される遺伝子(標的遺伝子)として、Annexin A1という因子を具体的に見いだすことができた。この因子は癌細胞そのものではなく、周囲間質の線維芽細胞(CAF)において着目される現象であり、当初想定していた癌細胞への直接的作用ではないが、関節作用(パラクライン)として腫瘍学的にも興味深い成果であると判断している。癌細胞でのコルチゾール受容体の発現が思いの外、低いことが明らかとなり、着眼点を間質細胞に移すこととなったが、CAFの機能とストレスホルモンを結びつけることは斬新なアイデアであると考えている。実際に成果報告を行った米国内分泌学会においても、同様の観点からの議論を展開することが出来た。以上のことから本研究課題のテーマであるストレスホルモンの癌への影響を解明するために概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画の通りに、上記結果のin vitroでの検証を行う。その際に子宮内膜癌由来のCAF培養細胞が必要となるが、既に5症例分のCAFを分離し、維持している。また、ストレス負荷マウス(社会隔離ストレス)を用い、子宮局所と血液中のコルチゾール濃度を比較する。またモデルマウスの子宮におけるコルチゾールの影響を今回のAnnexin A1の発現動態を含めて明らかにしていく。さらに、初年度~持ち越しているエピジェネティックの解析については、コルチゾール代謝酵素である11β-hydroxysteroid dehydrogenase type2のメチル化に限定して、ヒト子宮内膜癌組織と培養細胞を用いた解析を計画している。以上の成果を含めて日本癌学会、米国内分泌学会での成果報告を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画より、免疫組織化学での検討と結果の評価に時間を費やしたため、初年度から持ち越していたエピジェネティック解析を行うことが出来なかった。従ってその分を見込んでいた金額を次年度に繰り越す。
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次年度使用額の使用計画 |
ヒト子宮内膜癌組織および培養細胞を用い、11β-hydroxysteroid dehydrogenase type 2のメチル化についてCOBLA法を用いた解析を行う。
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