研究実績の概要 |
AFP産生胃癌をはじめとする胃癌の一群は胎児型の遺伝子発現形質を示し、肝転移を来たしやすい高悪性度胃癌である可能性が指摘されてきた。これらの高悪性度胃癌を同定するマーカーを明らかにし、その臨床病理学意的特徴並びに遺伝子異常を解析した。胃癌手術検体386例を対象として多数の胎児形質マーカーの発現を免疫染色を用いて調べ、その結果を基にクラスター解析を実施したところ、93例 (24%)が胎児形質マーカー高発現群として同定された。この群は他の群に比して、分化型優位、高頻度の脈管侵襲、高いリンパ節転率が特徴で、生存解析では単変量および多変量解析で有意に予後不良であった。遺伝子異常ではTP53異常が高頻度である一方、マイクロサテライト不安定性やEBウイルス感染との関連は乏しいことが判明した。さらに、The Cancer Genome Atlas (TCGA)で公開されている胃癌の解析データを用いたin silico解析を実施した。この結果、mRNA発現レベルで同様のクラスター解析を行った所、我々の免疫染色での解析結果と同様に胎児形質マーカー高発現群が同定され、ほぼ同様の臨床病理学的特徴を有することが再現された。さらにこの群は、TCGAによる分子分類では、“chromosomal instability” (CIN)型に分類され、"EBV"型, "MSI"型, "genomically stable"型では胎児形質マーカー発現は乏しいことが明らかになった。また特異的な治療標的分子としてCLDN-6やGPC3が候補となり得ることを示した。以上の通り、今年度の研究成果によって、胎児型形質胃癌の臨床病理学的特徴と遺伝子異常の特徴を明らかとなり、この高悪性度胃癌の治療戦略に向けて基盤となる知見を示すことが出来たと考えられる。
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