研究実績の概要 |
AFP産生胃癌をはじめとする胃癌の一群は胎児型の遺伝子発現形質を示し、予後不良な高悪性度胃癌であることを明らかにした。胃癌を対象に多数の胎児形質マーカー遺伝子発現を免疫染色(386症例)およびThe Cancer Genome Atlas (TCGA)胃癌データベース(210症例)を用いて調べ、その結果を基にクラスター解析を実施した。胃癌の約20%が胎児形質マーカー高発現群であり、この群は他群に比して、分化型優位、高頻度の脈管侵襲、高いリンパ節転率が特徴で、生存解析では単変量および多変量解析で有意に予後不良を示す高悪性度胃癌であった。遺伝子異常ではTP53異常が高頻度である一方、マイクロサテライト不安定性やEBウイルス感染との関連は乏しいことが判明した。TCGAによる分子分類では“chromosomal instability” (CIN)型に分類され、"EBV"型, "MSI"型, "genomically stable"型では胎児形質マーカー発現は乏しいことが明らかになった。特異的な治療標的分子としてCLDN6やGPC3が候補となり得ることを示した。最終年度では早期胃癌(n=282)を対象に同様の解析を実施し、早期胃癌の18%が胎児型形質を有し、他の群と比較して脈管侵襲が高度、TP53異常頻度が高く、早期より悪性度が高い群であり、内視鏡的治療などの縮小治療の適応は慎重にすべき群と考えられた。また、スキルス胃癌に特徴的なRHOA変異やCLDN18-ARHGAPs融合遺伝子と臨床病理像の関係を明らかにした。本研究成果によって、胎児型形質胃癌やびまん型胃癌の臨床病理学的特徴やゲノム異常が明らかとなり、これらの高悪性度胃癌の治療戦略に向けて基盤となる知見を示すことが出来たと考えられる。
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