研究課題/領域番号 |
15K08344
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
吉田 利通 三重大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80166959)
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研究分担者 |
小塚 祐司 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (50378311)
田中 典子 (花村典子) 三重大学, 医学部附属病院, 講師 (60437100)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | テネイシンC / 癌 / 間質 |
研究実績の概要 |
本年度は当初の予定から変更して、マクロファージに対するテネイシン-C(TNC)の効果の検討を行った。マウスの腹腔内マクロファージはTNC存在下で遊走が促進され、TNC添加はインターロイキン(IL)-6及び monocyte chemoattractant protein(MCP)-1の発現レベルを上昇させた。この系ではインテグリンαvβ3の接着斑の形成を促し、FAKとSRCのリン酸化の増強を伴っていた。また、このシグナルはNFκ-Bのリン酸化と核への移行を誘導し、NFκ-B, SRCやαvβ3の阻害剤はいずれもTNCが誘導するマクロファージのIL-6産生を抑制した。 他方、骨髄細胞幹細胞からGM-CSFで分化したマクロファージを用いて、癌組織ではないが心筋梗塞モデルを用いて、野生型とTNC遺伝子ノックアウトマウスでのマクロファージのM1とM2のレパートリーの差も検討している。野生型ではIL-6、IL-1β、iNOS、CCL2の発現の上昇が顕著で、ノックアウトマウスではIL-10、Mrc1、Arg-1の発現増強が優位であった。つまり野生型のマウスではM1への移行が顕著であり、ノックアウトマウスでは炎症が軽微でM2分画が優位であった。M1への移行は、阻害剤の実験によりToll-like Receptor 4を介したシグナルが主に働いていることが示唆されており、インテグリンの関与は弱そうである。 前者と後者ではTNCに炎症の増強効果があることは共通しているがシグナルの入り方が異なっており、今後の検討課題である。ひとつの理由として、前者は接着状態でTNCを作用させており、後者は浮遊状態での添加であり、細胞の状態によって作用機転が異なる可能性が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は線維芽細胞へのTNCの関与を検討するはずであったが、マクロファージにおけるTNCの役割について検討を行った。一般的に、炎症や組織壊死後の組織修復時に生じる現象は、癌組織での癌浸潤で起きるプロセスとよく似ており、今回検討して現象はTNCのマクロファージへの効果として癌組織でも共通しているものと考えられる。 マクロファージへの効果についてはまだ検討すべきことはあるもののおおむね解明できたと考えている。我々のものを含めたいままでの研究結果に矛盾しない成果だと考えられる。 なお、乳癌組織でマクロファージの分布とTNCの発現パターンは非常に一致していることを明らかとしており、マクロファージの存在がTNCの発現を増強し、TNCの存在がマクロファージの浸潤を増強して、上記のような全般的には炎症の増強に働いているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は間質の線維芽細胞について検討を行う。まず乳癌組織における線維芽細胞、特に筋線維芽細胞への分化したものおよび癌関連線維芽細胞のマーカーが発現している線維芽細胞の局在と、癌間質のTNCとの沈着との関連について組織学的に検討を行う。並行して、TNC添加による線維芽細胞の表現型の変化に関する細胞生物学的検討を行う。また、癌細胞との共培養を用いて同様の実験を試みる。筋線維芽細胞・癌関連線維芽細胞への移行はα-Smooth muscle actin、Podoplanin、Caveolin-1の発現の変化を、蛍光抗体法、Western blot法、定量的PCR法で解析する。逆に、これらの細胞でのTNCの発現の変化についても注目をしたい。機能面では、線維芽細胞の遊走と細胞増殖への影響の検討を行う。さらに、TNC添加に伴う線維芽細胞のコラーゲンやMatrix Metalloproteinases(MMPs)などの産生を定量PCR法で検討する。さらに、これらの変化を引き起こすTNCレセプタの同定とレセプタからのシグナリングについても検討をしたい。また、Podplaninは神経膠芽腫などではTNCと共発現がみられるので、レセプタとして働いている可能性があり、その点についても探求したい。これらにより、癌特異的な間質の形成にかかわるTNCの役割について明らかにする。
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