研究実績の概要 |
慢性肝炎、肝硬変においては、肝細胞およびクッパー細胞に鉄が過剰に蓄積することで、活性酸素が発生しひいては発がんに至ることが知られている。鉄は酸素と反応することで細胞傷害しやすい一方で電子伝達系どなどでのエネルギー産生や酸素運搬には必須の金属である。平成27年度は対象症例をリストアップした後、鉄染色で肝がん組織および非癌組織における鉄沈着の程度を検討した。 平成28年度は12症例の凍結標本の肝がん組織および非癌組織から、DNAを抽出しcDNAを作成した後、RT-PCRを用いてmRNA量を測定した。検討した鉄関連遺伝子はHepcidin, DMT-1, Ferroportin-1(FPN1), Transferin receptor-1/2である。非癌部に比べて癌部でmRNA量が明らかなに上昇していた症例は、Hepcidin(2/12例), DMT1(7/12例), FPN-1(7/12例), TFR-1(10/12例), TFR-2(4/12例)であった。 TFR-1が癌部発現亢進を示したため、93症例の肝切除標本について免疫染色にてタンパク発現を検討した。発現強度と発現%について評価したところ、高発現例を26/93例(28.0)に認め、高発現例は血管侵襲や肝内転移例で多く見られ、さらに血管侵襲部や肝内転移部でも多くの癌細胞が発現亢進をきたしていた。組織学的には、高発現例の多くが低分化型症例であった。TFR1-1は鉄を輸送する担体であるトランスフェリンの受容体であり、悪性度が高い癌細胞における鉄取り込み亢進機序を示唆する所見であった。 FPN-1も半数以上で癌部発現が高かったが、タンパク発現レベルでは明らかな差を認めなかった。
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