研究実績の概要 |
肝細胞癌は慢性肝炎や肝硬変を背景として発生しやすい癌であり、その発症に肝臓における鉄の代謝の関与が報告されている。肝細胞内における鉄の取り込みは、細胞膜に存在するTFR1/2, DMT1が担っており、細胞外への鉄排泄はFPNが担う。鉄は細胞内の酸化還元反応に必須の金属だが、過剰な蓄積は細胞傷害をもたらす。 癌では鉄の取り込みを促すTFR1が高発現する一方で、TFR2発現については一定の見解が得られていない。2005年~2012年の間に、当院でHCCと診断された 235例、腫瘍と背景肝の両方の凍結組織、およびホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織が利用可能な連続する210例を対象とし、鉄関連蛋白のmRNA発現、免疫染色によるタンパク発現を検討した。その結果、DMT1, Hepcidine, TFR2に関しては、mRNA発現は癌部・非癌部で有意な差はなかったが、TFR1は非癌部に比べ癌部でmRNA発現が優位に高かった。またTFR1とTFR2のタンパク発現において、癌細胞の脱分化とともにTFR2発現は減弱する一方、TFR1発現は脱分化とともにその発現が亢進しており、TFR1発現は肝硬変の存在、AFP高値と関連していた。さらにTFR1高発現群は低発現群に比べ累積生存率、無再発生存率ともに低く、多変量解析による生存率解析において予後不良因子であった。 TFR1は肝癌以外の悪性腫瘍においても発現亢進が報告されている。今回の結果およびこれまでの研究結果からTFR1を標的とした分子標的治療が、肝細胞癌の治療に役立つ可能性があると考えられる。
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