肝細胞癌(HCC)は再発が多く有効な治療法の確立が望まれている腫瘍である。肝臓は鉄の貯蔵を担う臓器であり、鉄の蓄積は酸化ストレスを介した肝発がんを促すことが知られている。鉄代謝は複雑なメカニズムによって制御され、がん細胞の生存にとっても極めて重要である。以上よりHCCにおける鉄代謝関連タンパクの役割を明らかにすることは肝がん治療法開発にとっての重要な一歩となりうる。 鉄代謝関連遺伝子Hepcidin、Ferroportin-1、Transferrin receptor(TFR)-1/-2のmRNAレベルを調べ、外科切除検HCC210例に対して免疫組織化学染色を用いてTFR1/2タンパク質の発現を検討し、中央値により2群に分け、TFR1/2発現と臨床病理学的因子を比較した。 その結果、mRNAの発現解析ではHCC組織中のTFR1のmRNA発現のみが、非癌部組織と比較して有意に増加していた(p=0.0013)。また癌部におけるTFR1高発現は、肝硬変あり(p<0.0001)、AFP高値(p<0.0001)、腫瘍サイズが小さいこと(p=0.0022)、低分化(p<0.0001)と関連していた。一方HCCにおけるTFR2の高発現は、AFP低値(p<0.0001)および分化度が高いこと(p<0.0001)と関連していた。さらに同一腫瘍内において高分化部分ではTFR1陰性/TFR2陽性であるのに対して、中~低分化部分ではTFR1陽性/TFR2陰性となる症例を認めた。193例における多変量解析では全生存率および無再発生存率いずれにおいても、TFR1高発現が予後不良であった。 以上より、肝細胞癌は脱分化する過程においてTFR2発現からTFR1発現へと変化することが示唆された。さらにHCCにおけるTFR1の高発現は、肝切除後の再発および生存における予後不良因子であると考えられる。
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