研究課題/領域番号 |
15K08348
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
松浦 恵子 大分大学, 医学部, 教授 (00291542)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腎癌 / 悪性化 / ノックアウトマウス / SAV1 |
研究実績の概要 |
腎癌の中でも最も多い腎淡明細胞癌(clear cell renal cell carcinoma: ccRCC)には、予後が比較的良好な低悪性度ccRCCと、予後不良とされている高悪性度ccRCCに分けることができる。これらのゲノム(染色体)の異常を比較し、高悪性度ccRCCにだけ特異的にみられるゲノムの異常を解析したところ、低悪性度ccRCCと比べると高悪性度ccRCCでは14番染色体の欠失が有意に高頻度に見られることがわかった。14番染色体の欠失により発現が低下する遺伝子のうち、SAV1遺伝子が、腎癌細胞を使った実験で細胞の増殖に関わっていることがわかった。また腎癌症例を調べると、高悪性度ccRCCでSAV1遺伝子の働き(発現)が抑制されていることがわかった。これらのことから、14番染色体が欠失し、そこに存在しているSAV1遺伝子の発現が低下することが腎癌の悪性化をもたらす原因の一つと考えられた。SAV1は腫瘍抑制に働くHippoパスウェイの主要因子であることが知られている。 そこで、SAV1が実際に腎癌の悪性化にどのように関わっているかを調べる目的で、マウスにSAV1遺伝子を腎臓でのみ働かないようにするノックアウトマウスを作成し、個体レベルでの機能解析を行う。また腎癌モデルマウス作製をめざすことも目的とする。これらを調べることにより、高悪性度ccRCCになるメカニズムを解明し、予後不良な腎癌の治療方法を開発することができる。また腎癌モデルマウスが作製されると、治療効果の検証などを行うことが可能になるという点で重要な研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は既に前段階の実験により、SAV1遺伝子の第3エクソン(タンパク質の情報をもつ遺伝子の一部)が消失するように工夫された(両端にloxP配列という特殊な構造をもつ遺伝子を挿入した)ターゲティングベクターを作製し、ES細胞(胚性幹細胞)のクローンを樹立していた。 そこで、平成27年度は、1)樹立されたES細胞をマウスの胚に注入(インジェクション)し、キメラマウス(正常の遺伝子とSAV1が失われた遺伝子の両方をもつマウス)を作製する。2)腎尿細管特異的遺伝子プロモーター(遺伝子を働くように命令する配列)にCre(loxP配列に働き、遺伝子を切り取ることができる)を持つトランスジェニックマウスと上記マウスを交配し、尿細管特異的にSAV1を欠失したコンディショナルノックアウトマウス(ある臓器や細胞でだけ遺伝子を失くしたマウス)を作製する、という2つを主に計画した。 1)については、ホルモン刺激した雌マウスを交配させ回収した受精卵にES細胞を注入し、偽妊娠マウスの子宮に移植しキメラマウスを作った。体毛の色により選出し、尾の一部からDNAを抽出しPCR(Exon3を挟んだプライマーペアを設計)にて遺伝子組み換えの有無を確認した。その後、ベクターに入っていた余分な配列をFLPマウスと交配させることによって切り取り、SAV1ノックアウトF1-FLPマウスを作った。 次に2)について、腎尿細管特異的遺伝子プロモーターにCreを持つトランスジェニックマウス(Jackson Laboratoryより購入済み)と1)で作ったマウスと交配させ、PCRで確認した。これにより、SAV1が腎臓の尿細管細胞でのみ発現しないマウスを作成できたことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度には、平成27年度に得られた結果をもとにした実験計画を遂行するため、得られたSAV1ノックアウトマウスと、腎癌ですでに癌抑制遺伝子として知られているVHL遺伝子を欠失させたVHLコンディショナルノックアウトマウスと交配させ、ダブルノックアウトマウスを作製する。作製したSAV1単独、VHL単独、SAV1・VHLダブルノックアウトそれぞれ染色体の片アレル欠失(ヘテロ)と両アレル欠失(ホモ)マウスについて、腎組織の形態変化、Hippoシグナル分子の活性化状態(働き具合)を解析する。 ただし、ノックアウトマウスにより、繁殖状況や生存率の低下などにより解析数が不足する場合には、プロモーターの変更あるいは繁殖の低下の問題点について、専門家に相談し対処する。(マウス作成の専門家とは、これまでにも相談した経緯がある。)
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度には、ノックアウトマウスの繁殖数が予想より少なかったためPCR、マウス等物品費にかかる予算が当初計画より少なかった。また旅費も当初計画より少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度には解析すべきマウスもそろってくる予定であり、PCRやマウス等の物品費は使用できる。また結果の報告や資料収集のための旅費も平成28年度に使用できる。
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