研究実績の概要 |
1. 目的:潰瘍性大腸炎 (UC)における炎症性発癌過程では,転写後レベルで標的遺伝子発現を制御するmicroRNA (miR)が炎症ストレスにより慢性的な機能阻害を引き起こすことが発癌に関与しているものと考えられ,さらに,これまで我々が明らかにしてきた大腸鋸歯状ポリープ発癌過程でのmiR発現やWnt/β-catenin及びRAS/RAF/MAPKシグナル伝達系の活性化機構との類似性が推測される.そこで本研究では,UC発癌過程のmiR発現と幾つかのシグナル伝達系活性化機序を鋸歯状ポリープ発癌経路のそれと比較解析することを研究課題とした. 2. 現時点までの実施研究計画内容:解析するUC関連異形成発癌症例の外科切除材料のホルマリン固定・パラフィン包埋切片数は合計154サンプルで,現在まで合計60サンプルに関してRNA を抽出し,real time PCR法でmiR20a, 21, 93, 181b発現の比較解析を行った.解析後10サンプルはデータの再検が必要と考えられ削除したため,現時点で統計解析できたサンプル数は50サンプル(内訳:UC炎症大腸粘膜14,UC関連軽度異形成11,UC関連高度異形成11,UC関連浸潤癌14)となった. 3. 現時点までの研究成果:(1) miR20a発現は,UC関連浸潤癌 (1.57 ± 0.41;数値は正常大腸粘膜に対する相対定量値を平均±標準誤差で表したもの),UC関連高度異形成 (1.03 ± 0.32),UC関連軽度異形成 (1.12 ± 0.20),UC炎症大腸粘膜 (0.71 ± 0.12)で,UC関連浸潤癌の値はUC炎症粘膜のそれよりも有意に高値であった (P <0.05). (2) miR21,93,181bはUC関連浸潤癌,高度異形成,軽度異形成,炎症粘膜の間に有意差はなかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
UC関連異形成発癌症例のmiR20a, 21, 93, 181b発現の比較解析は,平成27年度で全体の約1/3が終了しており,現時点でのpreliminary dataでmiR20a発現に有意差がみられており,alternative approachへ実験計画の変更は考慮しない予定で, 研究はおおむね順調に進展している.実験手技が安定してきたため,平成28年度で残りの約2/3のサンプルのmiR20a, 21, 93, 181b発現の解析は可能と考えている.
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今後の研究の推進方策 |
1. 平成28年度でUC関連異形成発癌症例154サンプルの内,残りの約2/3のサンプルのmiR20a, 21, 93, 181bの発現解析を行う予定である. 2. 平成29年度でUC関連異形成発癌症例のルマリン固定・パラフィン包埋切片154サンプル年からDNAを抽出し,Wnt/β-cateninシグナル伝達系関連遺伝子としてβ-catenin, APC,Axin,RAS/RAF/MAPKシグナル伝達系関連遺伝子としてBRAF,Krasの変異をdirect sequence法で検索する. 3. 2.で抽出したDNAを重亜硫酸ナトリウム処理し,β-catenin, APC,Axin,SFRP遺伝子プロモーター領域のメチル化の有無をmethylation specific PCR法で検索する. 4. Wnt/β-cateninシグナル伝達系とRAS/RAF/MAPKシグナル伝達系に関連する遺伝子変異あるいは遺伝子メチル化陽性例と陰性例の2群おけるmiR20, 21, 93, 181bの発現を統計学的に比較し,UC異形成発癌経路におけるシグナル伝達系活性化とmiR発現との関連について検証を進める. 5. 平成28-29年度に予定していた (1) 持続炎症発癌モデルにおけるmiR 20, 21, 93, 181b発現の解析, (2) 持続炎症発癌モデルにおけるmiRの機能変化の検証,(3) 炎症性発癌モデルに対するmiR機能調節薬剤による発癌抑制効果の検証についても研究費の余剰分を考慮しながら,できる限り進めてゆく.
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