研究課題/領域番号 |
15K08355
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
安田 政実 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50242508)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 低酸素環境 / 卵巣癌 / HIF-1α / HDAC / 治療標的 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに上皮性卵巣腫瘍におけるHypoxia-inducible factor-1α (HIF-1α)の発現解析から,明細胞癌が他の組織型に比して低酸素下環境で順応性が高いことを考察してきた.このことが明細胞癌の化学療法抵抗性に関わる因子の一つで,予後不良に繋がる可能性を報告し,明細胞癌ではphosphorylated-mammalian target of rapamycin(p-mTOR)の発現が亢進していることが,mTOR-HIF-1シグナル伝達系の活性化に関わっていると推察した.加えて,動物実験レベルでmTORの阻害が腫瘍の縮小にかなりの効果があることを実証してきた. 現在は,「卵巣癌におけるHDACの免疫組織化学的発現,各種卵巣癌培養株を用いてのHDAC mRNAの発現」の解析に着手しており,次のような結果を得てきている:明細胞癌では他の組織型に比してHDAC7の核内発現を示す例が多く,これらは陰性例に比して予後不良の傾向がある;明細胞癌株の方が漿液性腺癌株と比較してみると,種々のHDAC mRNA発現がより顕著である. つぎに,HIF-1ならびに関連分子をターゲットにした抗腫瘍剤の検討において,キク科のマリアアザミ(ミルクシスル)に含まれるシリマリンには,グルコ−スの取り込みや,HIF活性を抑制しPI3K-Akt-mTORシグナル伝達系を阻害するとの報告がある.薬剤の有害事象軽減の観点から,緑茶抽出物であるepigallocatechingallateは,PI3K-Akt-mTORシグナルなどを介したVEGFの抑制により抗血管新生効果を発揮すると期待されている.これらの新たな抗腫瘍効果の可能性を探る,と同時に薬剤感受性からみた卵巣腫瘍の特性と個別化を探究していく.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究課題を掲げる一方,一部の悪性腫瘍で予後との関連あるとされているHIF-1α遺伝子多型について,卵巣明細胞癌を対象に「exon12 C1772T多型」の頻度および遺伝子多型が臨床的予後に及ぼす影響を検討してきた.【方法】卵巣明細胞癌の手術検体を用い,GentraPuregene Tissue Kit(Qiagen, Germantown, MD, USA)を使用して,FFPEサンプルからゲノムDNAを単離した.プライマーは,ヒトHIF-1α遺伝子C1772T変異の判定に必要な178 塩基対の断片を増幅するため,以下の設計デザインとした.HIF-1α forward: 5'GCTCCCTATATCCCAATGGA-3',HIF-1α reverse:5'-CAGTGGTGGCAGTGGTAGTG-3.【結果】:卵巣明細胞癌におけるHIF-1α遺伝子C1772T変異の頻度は23.6%で,他の悪性腫瘍よりも明らかに高い値を示した.I期とII-IV期におけるHIF-1α変異陽性例は,それぞれ65例中14例(21.5%),24例中7例(29.1%)であった.5年生存群のHIF-1α変異頻度は76例中18例(23.6%),5年以内に死亡した群のHIF-1α変異頻度は13例中3例(23.0%)であり,有意差はなかった(p=0.958).5年無病生存で比較してもHIF-1α変異頻度に有意差はなかった(p=0.419).【考察】HIF-1α遺伝子変異と病期との関連,予後との間に有意な関連は認めなかった.ただし,I期の患者ではHIF-1α遺伝子変異(+)群のほうが良好な無病生存率を示す傾向にあった(p = 0.0614).よって,この異常の意義に関して未だ明確には証明し得ておらず,PI3KCAの変異と同様にこれまでの報告の信憑性を検討する.
|
今後の研究の推進方策 |
1.HIF-1ならびに関連分子をターゲットにした抗腫瘍剤の検討において,マリアアザミ(ミルクシスル)に含まれるシリマリンのin vitro投与実験を行い,HIF抑制およびPI3K-Akt-mTORシグナル伝達系を阻害を検討する. 2.薬剤有害事象軽減の観点から,緑茶抽出物epigallocatechingallateが,PI3K-Akt-mTOR介したVEGFの抑制により,抗血管新生効果をもたらすかを検討する. 3.in vitroにおいて,HDACsのsiRNAを用いノックダウン試みる.各HDACがノックダウンされた場合の核内における活性型HIF-1量の変化,HIF-1により転写される下流関連因子のタンパクならびにmRNAの発現量の変化について解析することでHIFとHDACsの関係性を解明する. 4.一連の低酸素関連の研究は,上皮成分をターゲットとしているが,今後の研究目標・課題に「上皮-間質関連」を加えたい.すわなち,間質(細胞)でも低酸素関連分子がどのように活性化・制御されているのか,新たな着眼点で対象の枠を広げていく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
おおむね順調に進展しており、ほぼ予算を執行している。
|
次年度使用額の使用計画 |
おおむね順調に伸展している。
|