研究課題/領域番号 |
15K08357
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
増田 しのぶ 日本大学, 医学部, 教授 (20276794)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 乳管癌 / 小葉癌 / 混合型 / Mitochondrial DNA |
研究実績の概要 |
【背景】乳癌の形態学的多様性が、複数の癌発生細胞に由来するのか、単一癌発生細胞から派生した遺伝子異常によるのか、あるいは蛋白合成過程における変化なのかを明らかにすることは、癌の発生、進展過程を知るうえで重要である。形態学的多様性を示す乳癌のうち、乳管癌と小葉癌が併存する乳癌(Combined lobular and ductal carcinoma: CLDC)は、近年遭遇する頻度が増えているが、その定義および癌化過程は明らかになっていない。 【目的】本年度われわれはミトコンドリアDNA変異解析について、1.方法論の改良、2.観察的研究:CLDCが複数の癌発生細胞に由来するか否か、を明らかにすることを目的として検討を行った。 【材料・方法】1.従来法と全長法とを比較した。2.CLDCと診断された3症例のFFPE標本を用いて、形態学的特徴が異なる病変(平坦型上皮異型、非浸潤性乳管癌、非浸潤性小葉癌、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌)および正常組織(乳腺、リンパ節、皮膚)からLaser microdissection法を用いてDNAを抽出し、ダイレクトシーケンス法により多型解析をおこなった。 【結果】1.全長法ではprimer設計に工夫が必要であった。2.CLDC症例について、次の多型が確認された。(1)合計40個の塩基置換多型(SNS)、(2) 2領域5個の単純塩基繰り返し数変化(SSRNV)が認められ、正常乳腺から非浸潤癌、浸潤癌への進展過程において、clonal selection, clonal expansionの双方が生じている可能性が示唆された。(3) 1個の塩基置換変異(SNV)が、浸潤性小葉癌のみに指摘された。非浸潤性病変よりも後に獲得した遺伝子変異であると考えられた。 【結論】検索したCLDC症例においては小葉癌と乳管癌は独立した事象ではなく前者は後者に遺伝子変化が加わって生じた可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度、検討予定であった 1.方法論の改良について、従来法mitochondrial DNA D-loop region (mtDNA-DL)(16045~16569, 0-60)から全長法mtDNA-DL(16029~16569, 0~579)への変更を行った。全長法による検索においては、C repeat(303-310), CA repeat(516-525)領域のSSRNVの存在が結果の解析を難しくしていたが、primer設計を工夫することにより信頼性のある結果を得ることができた。その結果、次の検討予定であった 2.CLDCの解析も概ね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
1.mtDNA-DL多型解析において、CLDCは小葉癌と乳管癌の衝突癌ではなく、前者は後者に遺伝子変化が加わって生じた可能性が示唆された。この結果は、臨床病理学的に重要な内容であるので、より確実に検証するために、別の方法論を用いて以下の様に検証する予定である。 (1)癌遺伝子パネルを用いたゲノム解析を行う。 (2)ゲノム解析結果をqRT-PCR法あるいはdigital PCR法により確認する。 2.mtDNA-DL多型解析法の方法論としての位置づけを明らかにする。 3.学会発表、論文化をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今後の研究の推進方策で記載したように、今年度得られた結果について、別の方法論を用いて確実に検証する必要が生じてきた。結果の検証には、第3者による検討でなおかつ、今回の検討方法とは異なる独立した方法論によるほうがよいため、業務委託を追加することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度末に前倒し請求を申請し承認されており、平成28年度初頭から予算が執行可能な状態となっている。具体的には、非腫瘍組織、異型上皮、非浸潤性乳管癌、非浸潤性小葉癌など計10検体からlaser microdissection法により採取されたDNAについて、癌遺伝子パネルを用いたゲノム解析(アンプリコンシーケンス解析をタカラバイオ(株)に業務委託し、引き続き今年度その結果を検証する。
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