研究課題
【背景】乳癌の形態学的多様性が、複数の癌発生細胞に由来するのか、単一癌発生細胞から派生した遺伝子異常によるのか、あるいは蛋白合成過程における変化なのかを明らかにすることは、癌の発生、進展過程を知るうえで重要である。形態学的多様性を示す乳癌のうち、乳管癌と小葉癌が併存する乳癌(Combined lobular and ductal carcinoma: CLDC)は、近年遭遇する頻度が増えているが、その定義および癌化過程は明らかになっていない。昨年われわれは、ミトコンドリアDNA変異解析の方法論および観察研究を行った。【目的】本年度われわれは、がん関連遺伝子解析を用いてCLDCの癌化過程を明らかにする。【材料・方法】(I) CLDCと診断された1症例のFFPE標本を用いて、形態学的特徴が異なる病変(平坦型上皮異型、非浸潤性乳管癌、非浸潤性小葉癌、浸潤性乳管癌、浸潤性小葉癌)および正常組織(乳腺、リンパ節、皮膚)からLaser microdissection法を用いてDNAを抽出した。 (II) 409癌関連遺伝子解析(Ion PI chip, Ion Proton system, Ion Reporter software)を行った。Tumor-normal解析を用いて腫瘍部のみに存在する変異で、十分な解析深度と変異頻度が得られたものを抽出した。(III) real time PCR法により解析結果を検証した。【結果・結論】(I)CDH1, RRM1, AKT1, RALGDS, PIK3CA 変異が指摘された。(II)変異の頻度は、病変の局在部位、組織型によって異なっていたが、近接する浸潤性乳管癌と浸潤性小葉癌には共通する遺伝子変異が指摘された。検索したCLDC症例において、近接する小葉癌と乳管癌は共通の癌細胞を起源として発生している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度行った癌関連遺伝子解析結果について、real time PCR法による検証作業が終了した。昨年度行ったmtDNAによる解析結果と本年度の検討結果に整合性が認められ、方法論の妥当性が検証された。これらの結果から、癌細胞の進展には、細胞組織の形態学的差異とともに、病変の位置関係が重要な意味を有することが明らかになってきている。具体的には、近接する浸潤性乳管癌と浸潤性小葉癌には共通する遺伝子変異、1p gain, 16q loss, CDH1 mutationが指摘された。一方、離れた部位の乳管内病変には、1p gain, 16q lossの他に、AKT1, RALGS, PIK3CA mutationが指摘された。
現在、3症例についての癌関連遺伝子変異解析が終了しているが、2例についてはrealtime PCR法による検証が未終了である。今年度は、癌関連遺伝子変異解析において抽出された変異候補遺伝子についての検証実験を行う。それにより、3症例についてのmtDNA DNA D-loop遺伝子変異解析、癌関連遺伝子変異解析およびrealtime PCR法による検証結果、さらにcopy number variationに関する結果がすべて整うことになり、現在までの結果の確実性を検討し、さらに考察を深めることが可能となる。さらに症例数を増やし、学会発表、論文化をすすめる予定である。
現在、3症例についての癌関連遺伝子変異解析が終了しているが、2例についてはrealtimePCR法による検証が未終了である。これらの解析のための試薬代を今年度の使用額として残しているため。
解析症例数を増やして検討し、学会発表、論文化をすすめる。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (12件) (うち査読あり 12件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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