研究課題
加齢医科学研究所および関連病院において平成27年度は8症例のクロイツフェルト・ヤコブ病の剖検を行った。全例で剖検時に嗅球および嗅粘膜病変を採取し、通常のホルマリン固定だけでなく、ウエスタンブロット解析に備えた凍結組織の保存も行った。これら8症例において古典的な神経病理学的手法を用いた嗅球および嗅粘膜病変の分布と程度、および免疫組織学的手法を用いた異常プリオン蛋白の沈着部位と程度の関連性を臨床所見や中枢神経系の他の領域の病理所見との対比検討も含めて詳細に検討中である。プリオン蛋白遺伝子変異およびコドン129多型、プリオン蛋白型との関連を加えた検討も併せて行っている。現時点までの検討では、肉眼的には長期経過例においてもクロイツフェルト・ヤコブ病の嗅球、嗅索の萎縮は明らかでない。神経病理学的には嗅球、嗅索においてグリオーシスと多数のアミロイド小体が観察されるが、海綿状変化は明らかでない。前嗅核の神経細胞はよく保たれており、嗅球の僧房細胞や顆粒細胞の減少も明らかでない。髄鞘の染色性は長期経過例でも保たれている。抗プリオン蛋白抗体を用いた免疫染色では微細顆粒状のシナプス型のプリオン蛋白沈着を認め、特に前嗅核、糸球体、僧房細胞層で強い。一部の症例では斑状のプリオン蛋白沈着も見られる。嗅球におけるプリオン蛋白の沈着は短期経過例から長期経過例までほぼ同様に観察されたが、神経細胞は長期経過例においても比較的保たれていた。これらの所見からの現時点での推測として、全経過と嗅球病変、嗅索病変の強度は相関していない印象である。嗅球は初期からクロイツフェルト・ヤコブ病の病理学的変化が認められるものの、病変の進行には抵抗性があると思われる。
2: おおむね順調に進展している
症例の蓄積は順調であり、当初の年間5例の蓄積目標を上回っている。プリオン感染対策、標本作製期間で時間を要しているが、古典的な神経病理学的手法による染色に加えて、抗プリオン蛋白抗体を用いた免疫染色も予定通り問題なく施行できている。今年度以降は病理学的検索、ウエスタンブロット解析、プリオン蛋白遺伝子解析も順調に進むことが予想される。
本検討を推進するためにはプリオン病剖検脳の蓄積が必須であり、引き続き関連病院とも連携してプリオン病の剖検を積極的に行っていく予定である。今後は剖検で得たクロイツフェルト・ヤコブ病の嗅粘膜および嗅球の凍結組織を用いてプロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白のウエスタン・ブロット解析を試みる。まず嗅粘膜および嗅球からプロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白がウエスタン・ブロット法で検出可能かどうかを検討し、検出可能であればその分子量やバンドパターン、糖鎖比が他の中枢神経系(特に大脳皮質)のプロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白のそれらのパターンと同一であるかどうかを検討する。また、プリオン病と診断され加療中の生存症例を用いて、嗅粘膜の生検を行い、得られた組織を免疫組織化学的に検討し、プリオン蛋白沈着の有無を検討することも視野に入れている。また可能であれば生検組織を用いたプロテアーゼ抵抗プリオン蛋白のウエスタン・ブロット解析も試みる。これらの解析によりもし嗅粘膜から異常プリオン蛋白の陽性所見が得られれば、嗅粘膜生検での診断が可能となり、生前の確定診断という画期的な手法を確立できる可能性がある。
論文作成、英文校正に関連した謝金の精算、支払いが次年度に繰り越したため。
論文作成に関連した謝金として支払い予定。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 2件)
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