研究課題
加齢医科学研究所および関連病院において平成28年度は5例のクロイツフェルト・ヤコブ病の病理解剖をおこない、全例で嗅球、嗅索および嗅粘膜を採取した。通常の標本作成用のホルマリン固定に加えて、ウエスタンブロット解析用の凍結保存もおこなった。平成27年度に蓄積した8例と合わせて、合計13例において、古典的な神経病理学的手法を用いた嗅球、嗅索および嗅粘膜病変の分布と程度を検討している。また抗プリオン蛋白抗体を用いた免疫組織学的手法を用いて、異常プリオン蛋白の沈着部位の分布および沈着量も検討している。さらに、これらの検討結果と大脳新皮質や基底核、脳幹における病変の程度やプリオン蛋白沈着の程度との関連性についても比較検討している。プリオン蛋白遺伝子変異や遺伝子多型、プロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白のウエスタンブロット解析によるプリオン蛋白型との関連についての検討も合わせておこなっている。現時点までの検討では長期経過例においても嗅球や嗅索の萎縮は高度にならないことが明らかとなった。神経病理学的には嗅球や嗅索においてグリオーシスや多数のアミロイド小体が観察されるが、海綿状変化は明らかでなかった。長期経過例でも嗅索内の前嗅核の神経細胞は保たれる傾向があり、嗅球内の僧房細胞や顆粒細胞、糸球体細胞の脱落も目立たない。髄鞘の染色性は長期経過例でも比較的保たれている。免疫染色では、微細顆粒状のプリオン蛋白沈着を認め、特に前嗅核、顆粒細胞層、顆粒細胞層、糸球体で強い。経過の短い症例から長期経過例までプリオン蛋白沈着はほぼ同様の分布と程度で観察され、長期経過例では一部に小型の斑状沈着を伴っていた。これらの結果から、嗅球や嗅索は発症早期からプリオン蛋白沈着を認めるものの病変の進行には抵抗を示すことが推測される。これらの病理所見は大脳新皮質の所見とは異なり、海馬や脳幹と類似の所見であると推測される。
2: おおむね順調に進展している
病理解剖の施行によるクロイツフェルト・ヤコブ病症例の蓄積、嗅球および嗅粘膜のサンプル収集は順調であり、当初予定の年間5例程度以上の病理学的解析が施行できている。標本作製も順調であり、古典的な神経病理学的手法による染色法だけでなく、抗プリオン蛋白抗体を用いた免疫染色も順調に施行している。プリオン蛋白の感染対策も含めて、これらの検索は特に問題なくおこなえている。現時点までの検討結果を第21回日本神経感染症学会総会・学術大会(平成28年10月22日、金沢)において報告した。今後は嗅球におけるプロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白のウエスタンブロット解析、各症例のプリオン蛋白遺伝子解析および多型解析との関連の検討も順次進める予定である。
本研究を推進するためにはプリオン病の剖検およびサンプルの収集が必須であり、引き続き関連病院とも連携しつつプリオン病の剖検を積極的におこなっていく予定である。平成29年度は剖検時に凍結保存した嗅球および嗅粘膜のプロテアーゼ抵抗性プリオン蛋白のウエスタンブロット解析をおこない、分子量やバンドパターンを検討し、大脳皮質の解析結果との対比も試みる予定である。現時点までの検討結果をまとめて、PRION2017(平成29年5月25日、エジンバラ、UK)において報告予定であり、さらにデータを論文にまとめて英文誌への投稿を予定している。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 10件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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