研究課題
本研究は、中皮腫細胞に人工多能性幹細胞(iPS細胞)誘導因子を遺伝子導入して得られた人工中皮腫幹細胞の生物学的特性を解析することにより、中皮腫幹細胞を標的とした治療法への応用を目指している。免疫不全マウスにおいて造腫瘍能を示すMSTO-211Hを、iPS細胞誘導因子を導入する中皮腫細胞株の候補としたが、MSTO-211Hは二相型中皮腫に由来することから、上皮型成分あるいは肉腫型成分を反映すると考えられる細胞をクローニングした。得られたクローンのうち、E-Cadherinの発現が高い上皮様クローンでは、がん幹細胞マーカーCD44や分化多能性マーカーNANOGの発現が高いのに対して、N-Cadherinの発現が高い肉腫様クローンでは、これらの発現が低い傾向が認められた。前年度に見出した中皮腫幹細胞関連細胞接着分子の発現を調べると、CD44やNANOGと同様に、上皮様クローンでは発現が高く、肉腫様クローンでは発現が低い傾向が認められた。そこで、これらの幹細胞関連分子の発現が低い肉腫様クローン(MSTO-211H-S1)を親株として、iPS細胞誘導因子(OCT3/4、SOX2、KLF4)を遺伝子導入し、iPS細胞樹立の手法に従って中皮腫細胞の初期化を試みた。コロニーを形成した中皮腫細胞を解析すると、iPS細胞誘導因子に加えて、幹細胞関連分子が親株MSTO-211H-S1と比較して数十倍高い発現を示すクローンが存在した。このクローンを人工中皮腫幹細胞の候補として、人工中皮腫幹細胞に特異的な分子や遺伝子変化を探索するとともに、造腫瘍能や薬剤感受性などの生物学的特性の解析を進める。
3: やや遅れている
中皮腫細胞株の初期化を試み、iPS細胞誘導因子に加えて幹細胞関連分子を高発現する人工中皮腫幹細胞の候補となるクローンを得ている。これらを用いて、中皮腫幹細胞の特性解析を進めているが、中皮腫幹細胞を標的とした治療法の開発につなげるためには、さらなる検討が必要である。
初期化中皮腫細胞から得られた人工中皮腫幹細胞の候補であるクローンを用いて、スフェロイド形成能や造腫瘍能などを調べ、自己複製能が確認されたクローンを人工中皮腫幹細胞として今後の解析に用いる。人工中皮腫幹細胞に特異的な分子や遺伝子変化を探索し、増殖や生存に関与する分子が得られれば、臨床検体を用いた検証を行う。また、免疫不全マウスにおける造腫瘍能や移植腫瘍の悪性度、薬剤感受性などの生物学的特性を調べることによって、中皮腫幹細胞を標的とした治療法の開発を試みる。
主に試薬や器具などの消耗品を購入した結果、5,375円の次年度使用額が生じたが、本年度予算は概ね計画通りに使用した。
次年度使用額については、研究を円滑に進めるための消耗品の購入に充てる。
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