研究課題
癌は上皮細胞より発生し、変異を蓄積しながら進展する。その過程においては、癌細胞をとりまく微小環境、すなわち間質細胞の変化が影響することもわかってきた。本研究では、大腸癌における間質の生物学的役割をエピジェネティクス機構に着目し解明する。すなわち、腺管分離法を用いて上皮腺管と間質を分離・回収し、正常組織の間質と癌組織の間質との間でDNAメチル化状態の異なる遺伝子を網羅解析により探索する。癌間質のDNAメチル化プロファイルの変化を明らかにすることで、癌の発育・進展の新しい分子機構を発見するとともに、癌の生物学的分類や浸潤・転移などの予後の予測、さらには抗癌剤治療に対する感受性の予測への応用を試みる。平成28年度は、1症例を追加し、合計3症例において、癌組織の腺管と間質および正常組織の腺管と間質を分離してゲノムDNAを得た。3症例の癌腺管ではTP53遺伝子変異がホモで検出されたため、癌間質では同様の変異が検出されないことを確認することで、分離の精度を証明した。2症例の組織のDNAを対象に、DNAメチル化の網羅解析(Infinium MethylationEPIC、Illumina社)を実施し、合計854,251箇所以上のDNAメチル化のプロファイルを得た。各CpG部位におけるメチル化レベルの差を2症例の間あるいは4種の組織間で比較すると、その差は組織間においてより大きくなる傾向が認められた。このうち正常腺管と癌腺管におけるメチル化プロファイルの違いは、癌細胞の発育・進展に関わる癌抑制遺伝子などの存在を示唆した。一方、正常間質と癌間質の間では、メチル化レベルの差が大きいCpG部位の数は少なかったが、癌間質の機能変化に関与する遺伝子が存在する可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究で困難が予想された腺管と間質の分離については、TP53遺伝子変異の有無により確認することができ、さらには実際に得られたDNAメチル化プロファイルの違いからも分離の妥当性が証明された。症例数はまだ少ないが、計画した方法により本研究の遂行が可能であることがわかった。
分離したサンプル(腺管と間質)の純度を確認することに時間を要したため、予定していたDNAメチル化網羅解析を次年度にも実施することとした。DNAメチル化網羅解析データをさらに詳細に吟味し、正常間質と癌間質でメチル化状態の異なる遺伝子を抽出する。これらの遺伝子の発現変動、機能をヒト大腸癌培養細胞を用いて検証する。
分離したサンプル(腺管と間質)の純度を確認することに時間を要したため。
予定していたDNAメチル化網羅解析を次年度にも実施することとした。
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