研究課題/領域番号 |
15K08385
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
高橋 博之 北里大学, 医学部, 講師 (60377330)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 直腸癌 / 化学・放射線療法 / βーカテニン / 上皮間葉転換 / がん幹細胞 |
研究実績の概要 |
進行期直腸癌に対する術前化学放射線療法抵抗性(NCRT)の原因としてがん幹細胞とそれに関連するβ-カテニン系と上皮間葉転換(EMT)に着目し、進行期直腸癌で、腫瘍組織内のβ-カテニン/EMT(β-カテ/EMT)誘導がん幹細胞化機構を同定し、②NCRT耐性機序との関連性を明らかにする。③β-カテ/EMT依存性がん幹細胞の抗癌剤耐性を導く責任分子を網羅的に検索する。④病理組織標本で、β-カテ/EMTがん幹細胞の可視化による予後予測システムの確立と新しい治療パラダイムの構築へ展開することを研究目的としている。 本年度は、ヒト病理組織検体を用いた標準的なHE染色標本で、EMT様病変と非EMT病変の割合の正確な算出方法を規定し、再測定を行った。NCRT施行前にもともと存在した腫瘍の大きさに対するそれぞれの病変の割合を顕微鏡の面積測定装置を用いて正確に測定した。正確に算出した各病変の面積比もとにEMT様病変・非EMT病変の遺残割合を再評価し、EMT様病変はNCRTが効きにくいこと、EMT様病変で核β-カテニン発現が高いこと、EMTの傍証であるSnail高発現、E-cadherin発現低下を再確認した。また、EMT様病変では癌幹細胞マーカーのlgr5高発現部位で核β-カテニン発現が高いことから、β-カテニン、EMT様病変、癌幹細胞化の深い関係が示唆された。 培養細胞を用いた実験では、大腸癌培養細胞のDLD1を用いSTK2培地を用いEMT化、癌幹細胞化を誘導した時の抗がん剤(ドキソルビシン(DOX))に対する反応を検討した。STK2培地でEMT化、癌幹細胞化を誘導した時には、アポトーシスが抑制されDOXの効果が低下した。このことから、培養細胞の実験でもβ-カテニン/EMT(β-カテ/EMT)誘導がん幹細胞化が治療抵抗性に関係していることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行実験から立案した作業仮設が概ね証明できた。ヒト病理組織検体では、免疫染色による有用ながん幹細胞マーカーの選出が出来ていないが、ISHにより大腸の幹細胞マーカーであるlgr5のmRNAの検出により、EMT様病変でのがん幹細胞化が証明された。また、培養細胞の実験において、STK2培地を用いてEMT化/がん幹細胞化を誘導し、その治療抵抗性を証明出来た。
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今後の研究の推進方策 |
これまで得られた結果をまとめて、NCRT効果予測システムを構築する。 EMT様病変ではNCRT効果の期待が低いが、EMT様病変周囲の間質成分などの評価を行い、現在発展が目覚ましい免疫療法などに対する効果予測につながるような所見の有無を検討し、さらに予後改善に有用な因子の発見を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度の計画で、恒常的β―カテニン過剰発現細胞を作製する予定が、β―カテニンを過剰発現している通常の大腸癌細胞株が存在したおかげで、あえて作成する必要性がなくなったことから、一昨年に次年度使用額が生じていたもの。昨年度は、ほぼ予定通り使用し、次年度使用額も減少している。
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次年度使用額の使用計画 |
NCRT効果予測システムの構築に際し、必要に応じて追加染色を行うため、試薬購入費に充てる。 また、EMT様病変および非EMT病変のそれぞれの間質成分の評価で、追加染色が必要なため、その試薬購入費に充てる。
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