進行期直腸癌に対し外科的切除と術前化学・放射線療法(NCRT)の併用が試みられるが、その無効症例も存在する。この原因の1つにがん幹細胞(CSC)の存在がある。現在、がん幹細胞化にはb-カテニン/EMT(上皮間質転換)機構の関与が考えられている。そこで、ヒト直腸癌検体で直腸癌のNCRT効果予測における腫瘍形態およびb-カテニンの有用性や、治療抵抗性とb-カテニン/EMT機構の関係性について調べ、また培養細胞を用いて大腸癌細胞におけるEMTとがん幹細胞化や化学療法耐性機構の関連を分子レベルで調べた。 その結果、ヒト検体では、NCRT前の免疫染色で、治療効果が高いほど核b-カテニン陽性率は高値を示した。組織形態的に、非EMTとEMT様に分類とすると、NCRT後では核b-カテニン陽性率、Snail発現はEMT様で有意に高く、E-cadherin 膜発現、アポトーシスやKi-67の陽性率は非EMTで有意に高値を示した。ISHでは、大腸の幹細胞マーカーであるlgr5のmRNA発現は、EMT-様ではlgr5陽性部位において核b-カテニン高陽性率を示した。 培養細胞実験で、ヒト間葉系幹細胞の培養に用いる無血清培地のSTK2で培養すると、増殖が抑制され、線維芽細胞様に形態が変化し、核分裂像やアポトーシスの頻度の低下、蛋白発現はE-cadherin低下、核b-カテニンやSlugの増加を示した。免疫蛍光染色で、STK2による線維芽細胞様形態変化とE-cadherin膜発現低下、核b-カテニン発現増加を確認した。さらに、高いspheroid形成能、高いALDH酵素活性を認めた。また、STK2ではDOX投与後もアポトーシスが抑制された。 以上の人体標本および培養細胞の結果から、b-カテニン/EMT誘導がん幹細胞はNCRT抵抗性を示し、核b-カテニン陽性はNCRT前に効果予測因子となることが示唆された。
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