平成29年度は前年度に引き続き,尿路上皮癌TURBT検体のFGFR3遺伝子点突然変異例,TERT遺伝子点突然変異例のパラフィン包埋切片を用い,野生型DNA,変異DNAに特異的に相補するプライマーを用いてin situ LAMP 法,変異特異的in situ PCR法(AS-PCR法),および,Star-FISH法による変異細胞の可視化を試みた.AS-PCR法においてはプライマーの3'端の塩基を変異DNAに相補的なBridged Nucleic Acid (BNA)で置換し,加えて,BNAで構成された野生型DNAに相補的な3’リン酸基修飾オリゴヌクレオチドブロッカーを加えることによって野生型DNAの増幅を阻害するべく in situ BNAクランピングを併用した. 結果としては,組織切片上ではAS-PCR法のみでFGFR3遺伝子,TERT遺伝子のシグナルが蛍光顕微鏡下に確認された.残念ながら,LAMP法ではバックグラウンドが強く,いずれの遺伝子のシグナルも明瞭には確認し得なかった.原因としては標式オリゴの非特異的な結合が除去できていないことにあるものと考えられた.Star-FISH法においては観察されるシグナルが微弱で明瞭なシグナルを観察できなかった.原因としては,PCR反応後の蛍光プローブのハイブリダイゼーションが不完全に終わったものと推察された.AS-PCR法ではいずれの変異遺伝子においても変異を有する腫瘍細胞には1個のシグナルを有するものが少数観察されたが,シグナルを認めないものが主体を占めた.おそらくはBNAブロッカーが変異遺伝子にもハイブリダイズされて,プライマーからの塩基の伸長が不十分であったものと推察される. 現段階では診断に用いるレベルには達していないものの,本手法が生検組織・細胞診検体を用いた遺伝子診断の精度向上に寄与し得る可能性を示せたものと考える.
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