研究実績の概要 |
これまで集積した肝細胞腺腫(hepatocellular adenoma,HCA)や対照病変としての限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia,FNH)の検索結果から,日本での肝細胞腺腫(hepatocellular adenoma,HCA)の特徴を明らかにすることができた。(1)HCAは,性差がほとんどない。(2)背景因子として経口避妊薬は少なく,肝内血流異常の方がはるかに多い。(3)肉眼的なFNHの特徴とされている中心瘢痕がHCAにもほぼ同頻度で存在する。(4)FNHの組織所見の特徴とされる異常門脈域がHCAにも存在する。(5)異型性が強いと欧米でいわれているβ-catenin活性化型HCAは日本の例では,異型が乏しい。これらの日本のHCAの特徴は従来の欧米からの報告とは非常に異なったもので,論文刊行や世界的学会で発表する価値が十分あると考えられる。 さらに,肝細胞癌(hepatocellular carcinoma,HCC)がHCAの結節内にみられる,HCC in HCA例,HCC in HCA in FNH例の存在は,FNH,HCA,HCCが連続的な多段階的増悪の各段階であり,その危険因子として肝内血流異常が関与している,という当初の我々の仮説に矛盾しない事実であった。そして,このHCC in HCA in FNH例では,切除後,残肝内に新たなFNHの発生がみられた。このことは,肝内血流異常→FNH→HCA→HCCという一連の病変の進展過程があり得ることを実証するものであった。 また,HCA結節内で,様々な多様な免疫組織化学的所見や遺伝子変異がみられた例を経験することができた。この事実は,HCA内の遺伝子変異は亜型の数よりさらに複雑であり,HCA結節内の病態は,慎重に詳細に調べる必要があることが示唆された。
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