研究課題/領域番号 |
15K08389
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
久岡 正典 産業医科大学, 医学部, 教授 (40218706)
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研究分担者 |
松山 篤二 産業医科大学, 大学病院, 講師 (80351021)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 骨軟部腫瘍 / 次世代シークエンス / 融合遺伝子 / 病理診断 |
研究実績の概要 |
組織像が多彩である上に日常診療で遭遇する機会が少ないなどの理由で一般に診断が困難とされている骨軟部腫瘍の正確な病理診断に寄与できる新たな分子遺伝学的手法の候補として、最近開発された次世代シークエンス(NGS)法の実効可能性と有用性を検討するのが本研究の目的です。平成27年度はNGS法の受託解析で実績のある専門委託業者を選定した上で、日常の病理診断に汎用されているホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPE)からのRNAの抽出法を確立し、解析用サンプルとしての品質の調査を詳細に行ったところ、約7割のサンプルがNGS法での解析可能との結果が得られました。この結果を受けてすでに特異的な融合遺伝子が検出されている滑膜肉腫などの骨軟部腫瘍のFFPEから抽出したRNAを用いてNGS解析を行いましたが、残念ながら目的とする遺伝子異常は検出されませんでした。したがって、平成28年度は解析用のサンプルをFFPEから凍結新鮮腫瘍組織に変更し、以前に得られた臨床病理学的所見から未知の融合遺伝子の存在の可能性が予想された骨軟部腫瘍症例をNGS法で解析することにしました。10例の腫瘍検体を解析した結果、2例において既知ではあるものの腫瘍の臨床病理学的特徴からは当初想定しなかった融合遺伝子が検出されたため、この所見をすでに収集している類似の症例を多数用いて調査し、その妥当性を確認することができました。また、このほかにも目下報告されていない融合遺伝子の候補が複数検出されたことから、今年度はreverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法やfluorescence in situ hybridization (FISH)法などを用いてその真偽を確認する予定としております。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度から28年度にかけて、次世代シーケンス法(NGS)を用いてホルマリン固定パラフィン包埋腫瘍組織(FFPE)から抽出したtotal RNAから骨軟部腫瘍(ユーイング肉腫、滑膜肉腫等)の既知の融合遺伝子がどの程度検出可能であるかを検証しました。凍結新鮮腫瘍組織からRNAを抽出した1例の滑膜肉腫を陽性対照として検討したところ、その陽性対照からはSS18-SSX融合遺伝子が検出されたにも関わらず、FFPEから抽出したRNAを用いた9例ではいずれも融合遺伝子は検出できませんでした。従って、現状ではFFPEからNGSを用いて融合遺伝子を検出するのは困難であると考えられました。 そのため今回は凍結新鮮腫瘍組織から抽出したRNAを用いて未知の融合遺伝子の検出を試みるという方針に変更しました。腫瘍組織が凍結保存されており臨床病理学的特徴から未知の融合遺伝子を有する可能性が高いと推定される10症例をまず選択し、それらの凍結腫瘍組織からRNAを抽出しNGSにて解析を行いました。その結果検出された様々な遺伝子異常の中から、リードのゲノム上でのマッピング位置やマッピングリード数などを基に54種類の遺伝子異常を融合遺伝子の候補として抽出できました。これらのうち 2例では、すでに報告されている稀なタイプの融合遺伝子PAX3-MAML3ないしBCOR-CCNB3が検出されました。この結果を確認するべくこれまで収集済の多数例をRT-PCR法にてスクリーニングしたところ、それぞれを1例と9例に見出しました。これらの臨床病理学的特徴を解析し、その結果を2017年4月に行われる日本病理学会総会で報告するとともに論文を投稿準備中です。また、 残りの8例の解析では、新規の融合遺伝子の候補が50種類余り検出されているため、これらが新たな融合遺伝子であるのかどうかの検討を現在行っているところです。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのNGSの解析結果から、新たな融合遺伝子の候補として54種類の遺伝子変異が検出されました。これらが腫瘍に特異的な融合遺伝子と判断されるためには、臨床病理学的に共通点の見られる複数の症例に同一の遺伝子異常が検出される必要があります。このような例を見出すため、以下の手順で検索を進めていきます。1)今回のRNA-seqで検出された融合遺伝子候補をFFPEからも検出できるよう、当該症例を陽性対照としてRT-PCRの条件設定を行います。2) これまでに融合遺伝子が検出されておらず確定診断に至っていない例を中心に、臨床病理学的所見から類似性があり同一疾患概念に含まれる可能性のある症例を抽出し、それらのFFPEからRNAを抽出して、1)で設定された条件下でRT-PCR法によるスクリーニングを行い、同じタイプの融合遺伝子の検出を試みます。3) RT-PCR法で融合遺伝子が検出された例があれば、FISH法で遺伝子再構成を確認し、融合遺伝子の存在を確定します。なお、遺伝子融合点が異なるバリアント融合遺伝子の可能性も視野に入れてFISH法による検索を行います。4) 融合に関与する遺伝子によっては、融合遺伝子に由来するキメラ蛋白が市販の抗体を用いた免疫組織化学により検出可能な場合があるため、免疫組織化学によるスクリーニングも並行して行い、融合遺伝子を有する症例の抽出を試みます。5) 新規の融合遺伝子の存在が確定された例については、臨床病理学的所見ならびに細胞分化・増殖関連シグナル等に関連するマーカーを免疫組織化学等で解析して腫瘍の新たな特徴づけを行います。またこれらの研究過程で得られた結果や知見は関連学会での発表や学術誌等を介して公表する予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を遂行するための主たる解析手法としてNGS法(illumina社のRNA-seq法)を用いましたが、目下、我々の所属施設には解析機器が設置されていないため、北海道システムサイエンス社に委託して解析を行いました。研究は一部計画の変更が必要であったものの、ほぼ当初の計画に沿って順調に進展させることができましたが、当初の予定よりも解析サンプル数を少なく設定して検索しましたので、平成28年度は864,000円と当初計上した予算以下の支出で研究を実施することになりました。また、得られた解析結果をさらに検証するために、新たなサンプル作成に必要な消耗品であるミクロトーム替刃(66,960円)を平成28年度に購入し、その収支差額である35,640円を次年度使用額として繰り越すことといたしました。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、当初に計上された予算に上記の35,640円を加えた額を本研究のために執行させていただく予定です。当該年度は、これまでのNGS解析から得られた結果を基に、まとまった数の症例のFFPEからRNAを抽出してRT-PCR法にてスクリーニングし、必要に応じてFISH法を加えることによって研究結果の確認と一層の展開を予定しています。研究対象として100例以上のサンプルを用いることを目下考慮しており、それらの解析に必要なRT-PCR法のプライマーやFISH法のプロープを含む試薬類・器具類の消耗品の購入を予定しており、繰り越し額を含む上記予算はそれらの購入費(消耗品費)として当てる計画です。
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