DNAメチル化は、癌関連遺伝子発現を抑制し、高い増殖能力、不死化、浸潤、転移など癌の特徴に影響を及ぼすため、癌の診断、治療標的として重要である。我々は、メチルCpG結合ドメイン(MBD)と転写因子NFκBの転写活性化ドメイン(AD)、あるいは、TET1(Ten-eleven translocation protein 1)蛋白の触媒ドメイン(TET1-CD)を用いたゲノムワイドなDNAメチル化遺伝子再活性化技術を開発し、前立腺癌細胞株LNCaPの増殖が著しく抑制されることを見出した。本研究では、これらの系を用い、前立腺癌細胞の増殖に関与するメチル化遺伝子を探し出し、DNAメチル化による細胞増殖促進メカニズムや診断バイオマーカー、治療標的としての可能性について明らかにすることを目的とした。 前年度までに前立腺癌細胞株LNCaPにおいてDNAメチル化で制御されるアポトーシス誘導因子としてPYCARD遺伝子を見出し、20症例のマイクロダイセクションした前立腺癌臨床検体を用いメチル化特異的PCR(MSP)法によりプロモーター領域のメチル化を解析した。本年度はさらに31症例を追加し、合計、51症例中、46症例という極めて高率にPYCARDプロモーター領域の癌特異的メチル化が生じていることを見出した(46/51: 90%)。また、LNCaP細胞においてPYCARD遺伝子のテトラサイクリン誘導発現系を作製し、PYCARD発現誘導がアポトーシスを引き起こすこと、臨床検体を用いたPYCARDの免疫染色の結果からPYCARDは正常前立腺で発現し、癌で発現が消失することを明らかにした。これらの結果は、前立腺癌におけるPYCARD遺伝子高度メチル化の重要性を示すものと考えられる。
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