研究課題/領域番号 |
15K08393
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江幡 正悟 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90506726)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大腸癌 / TGF-beta/BMP |
研究実績の概要 |
予備的検討からヒト大腸癌細胞株では自己分泌されたBMP4による内因性のBMPシグナル伝達を阻害することで、癌細胞のアポトーシスが誘導されることがわかっている。 今年度はこのBMP-4発現亢進が、Smadシグナル伝達を活性化させているか、ヒトの臨床検体を用いて検討を行った。ヒト大腸癌症例の原発腫瘍組織に用いて、BMP-4やリン酸化Smad1/5に対する抗体による免疫組織化学を行ったところ、正常大腸上皮細胞に比べ、大腸癌細胞ではBMP-4発現が亢進し、これによって内在性にSmad1/5シグナル伝達が活性化していることがわかった。 また、public databaseを用いて、各病期の大腸癌症例の予後と、BMP4 mRNA発現量の相関性しらべたところ、少なくともstage IIの大腸癌症例ではBMP4発現量が独立した予後規定因子であることがわかった。 さらに、BMP-4によるアポトーシス制御の分子メカニズムを調べるために、RNAシーケンシング解析 (RNA-seq)を行い、BMP-4-Smad1/5の標的遺伝子を網羅的に探索した。これらの解析結果を用いて、次年度以降にはBMP-4で発現制御されるアポトーシス制御因子の同定を試みる予定である。 さらに、BMP-4-Smad1/5シグナル伝達をすることで、大腸癌の進展を抑制できるか、移植モデルを用いて予備的な検討を行った。今年度はBMP受容体キナーゼ活性阻害作用を有する低分子化合物LDN-193189を、様々な方法でマウスに投与を行った。至適な投与条件が定まりつつあるので、次年度以降では本格的な大腸癌治療実験に着手する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床検体をもちいた解析から、ヒト大腸癌細胞ではBMP-4発現が亢進しており、これが予後不良と相関していることが判明した。また次年度以降に予定しているRNA-seqや治療実験のための予備的検討なども遂行できた。本年度に計画した研究がほぼ予定通りに遂行され、さらに次年度以降の解析への準備が整ったため、概ね順調に進展している、と判断した。 なお、発光イメージング技術を大腸癌細胞移植モデルに応用し、BMP-4-Smad1/5シグナル伝達の可視化を試みたが、こちらはシグナル/ノイズ比が低く、in vivoでの観察が容易でないと判断された。ただし、ヒト大腸癌組織の免疫組織化学や多変量解析など、より臨床的意義のあるデータが得られため、研究全体の遂行には支障はないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究が概ね予定通りに遂行され、かつ予想した結果が得られているため、次年度以降でも研究開始当初の予定の通りに進行する予定である。 BMP-4によるアポトーシス制御の分子メカニズムを調べるために、RNA-seqで得られた多くのBMP-4-Smad1/5の標的遺伝子の中から、アポトーシス制御に重要な遺伝子の同定を試みる予定である。 さらに、大腸癌細胞移植モデルにおいて、低分子化合物LDN-193189を投与し、大腸癌の進展が抑制できるか、in vivoで検証する。またセツキシマブ、5フルオロウラシル、イリノテカン、オキサリプラチン等、大腸癌治療で使用されている化学療法薬剤に、LDN-193189を併用することで、相加相乗的な抗腫瘍効果が生じるか、検討する
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、発光イメージング技術を用いたシグナル可視化を予定していたため、これに関係する物品費を計上していた。しかるに予備的検討を重ねた結果、この解析の継続は必ずしも容易ではなく、安定した結果を得ることが難しいと判断し、免疫組織化学や多変量解析などで代替した。発光イメージング物品の購入を中止したため、該当する金額が次年度使用額として発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
In vivoでの解析が順調に進行しており、次年度以降でもこれらの解析を重点的に継続する。使用する実験動物の飼育にかかる費用や購入する薬品が高額になると予想されるため、次年度使用額は物品費として計上する。
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