これまでの研究成果から、大腸癌細胞では高頻度にWnt/beta-cateninシグナルが亢進しているが、これによりTCF4がBMP4のlocusに直接的に結合することでBMP4遺伝子の転写が亢進していることが明らかになった。またこれによって自己分泌的に活性化しているBMP-4-Smadシグナルを、BMP I型受容体キナーゼ阻害剤(LDN-193189)によって阻害することで大腸癌細胞にアポトーシスが誘導され、大腸癌細胞移植モデルマウスでの腫瘍形成が抑制されることがわかった。 そこで本年度は昨年度から継続して、大腸癌細胞のアポトーシス制御に重要なBMP-4の標的遺伝子の同定を行った。特に大腸癌細胞の生存にはErkを介したシグナル伝達が深く関わっていることから、RNA-seqを用いたスクリーニングを行い、大腸癌細胞でのErkのリン酸化を制御する遺伝子を重点的に捜索した。この結果、BMP-4はErkの脱リン酸化酵素のひとつであるDUP5の発現を減少させ、これによってErkの活性を高めることで、大腸癌細胞にアポトーシス耐性を生じさせていることが判明した。 研究期間全体を通じて、BMP-4シグナルを介した大腸癌細胞のアポトーシス制御の新たな分子メカニズムを解明し、LDN-193189等のBMPシグナル伝達阻害剤を用いた新たな分子標的治療の可能性を明らかにすることができた。ここまでのすべての研究成果を取りまとめ、本年度はCancer Research誌にて論文報告をおこなったが、同誌のHighlightでも取り上げていただくなどの評価を得ることができた。大腸癌治療におけるBMPシグナル伝達阻害剤の応用に関しては明確にPOCは取得することができたが、今後は他の疾患にも応用できる可能性があるか探っていきたい。
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