研究課題/領域番号 |
15K08397
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
華表 友暁 浜松医科大学, 医学部, 助教 (40416665)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | がんゲノム / 内在性レトロウイルス / NGS / レトロトランスポジション |
研究実績の概要 |
ヒト腫瘍細胞で起こるゲノム構造異常については一塩基レベルの変異と比較して不明な点が多い。ヒトゲノムの約8%を占める内在性レトロウイルス(HERV)による長鎖配列挿入変異、即ちレトロトランスポジションについては、同じレトロトランスポゾンに属するLINEとは異なり実際に起こる現象なのかどうかも明らかになっていない。本研究では、HERVの中でも塩基配列が最も高く保持されているとされるHML-2サブグループを標的として、ヒト腫瘍のゲノムにおけるHML-2部位を網羅的に検出することを試みるためのゲノム解析を行った。肺腺がん、胃がん及び大腸癌組織からゲノムDNAを抽出し、制限酵素処理及びself-ligation処理を施すことで環状DNAを作製し、それを鋳型として高速DNAシーケンサー(NGS)用アダプター配列を含むHML-2標的プライマーを用いたinverse-PCRによりHML-2の末端にあるLTR領域とその隣接ゲノム領域を増幅させたDNAライブラリーを作製してNGSによるシーケンスを行った。シーケンスリードからLTR領域をトリミングして得られた隣接ゲノム領域をレファレンスゲノムにアライメントしてHML-2部位を同定していき、既知のHML-2部位(germline)と新規部位とに分類した。その結果、多数の新規部位を多数同定することができた。これらの新規HML-2部位は現時点では体細胞におけるレトロトランスポジション以外にも未知のHML-2挿入多型もしくはPCRによるartifactが含まれている可能性があるため、今後は情報科学的手法を用いてフィルタリングを行うとともに、非腫瘍組織DNAとの比較によりレトロトランスポジションの可能性について検証していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は肺腺がん7例、胃がん8例、大腸癌10例を解析した。低分化型のもの、または比較的進行しているものを選択し、肺腺がんは4例、胃がんは7例が低分化型、大腸癌は全10例がステージIIIB~IVのものを解析した。発症年齢については、全25症例の平均が61歳(39~81歳)であった。複数検体を同時に解読するために、NGS用アダプターには症例ごとに設定したindex配列を付与した。シーケンス対象領域には反復配列であるHML-2配列が含まれているため、単一のシーケンスプライマーで解読してしまうと単調なシーケンスシグナルを生み出してNGSによるシーケンスクオリティの低下を招く可能性があった。そのため、アダプターとHML-2標的プライマーとの間には4種の長さが異なるリンカー配列を導入して解読サイクルをずらし、シグナルの多様性を確保することでシーケンスクオリティの著しい低下を防いだ。ペアエンドシーケンスにより出力されたリードは、制限酵素により環状にself-ligationさせたDNAを鋳型としたinverse PCR産物に由来し、解読される塩基配列の範囲はHML-2のLTR領域内の使用したプライマー配列から隣接ゲノム領域の該当制限酵素部位までの領域とLTR領域内の該当制限酵素部位から使用した逆方向プライマー配列までとなる。ただし、隣接ゲノム領域が長い場合は該当制限酵素部位まで到達しないこともある。このような複雑な配列構造からLTR領域を適切にトリミングすることで隣接ゲノム領域の配列のみとなるようにデータ処理した。その後、リファレンスゲノムにマッピングされる領域から反復配列のものを除き、その中から既知HML-2挿入多型と新規LTR部位に分類した結果、多数の新規LTR部位候補を同定できたため、概ね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
同定した数百もの新規LTR部位候補には、最終的な目標である体細胞におけるレトロトランスポジションに該当するものが含まれていると考えられるが、同時に未知のHML-2挿入多型やPCRによるartifactを含んでいる可能性もある。未知のHML-2挿入多型に関しては、近年全ゲノム解析の進歩により多数の新規HML-2挿入多型が同定され報告されており(Wildschutte JH, et al. PNAS, 2016, doi: 10.1073)、そのような新しく報告されたHML-2挿入多型情報を用いて本研究にて同定した多数のLTR部位をフィルターにかけることは可能である。今後は、自身でも未知のHML-2挿入多型について調査し、フィルターの精度を高めていきたい。またPCRによるartifactに関しては、ヒトゲノムの約40%は反復配列が占めていることからも十分に考えられ、その対処が必要である。inverse PCRの過程で不十分な伸長反応産物が別のLTR付近に存在する相同性の高いゲノム領域にアニーリングしてPCR増幅が進行し、その結果人工的に2つのゲノム領域が融合した産物が生成されることはあり得る。そのため、機械学習による分類を含めた情報科学的なフィルタリングを現在構築中であり、信頼性の低いものを効率よく除外していきたい。非腫瘍部および腫瘍部から抽出したDNAを用いたPCRによる比較も行う予定だが、試料のDNA量には制約があり多数の候補部位を全て調査することが困難である場合もあるため、情報科学的手法による対象の絞込みは重要な過程といえる。
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