ヒトゲノムの約8%を占めるレトロトランスポゾンであるヒト内在性レトロウイルス(HERV)は、ある部位においてはその存在の有無が個体間で異なる「挿入多型」が知られている一方、体細胞における挿入変異については具体的な報告はまだない。腫瘍組織におけるHERVの挿入変異を同定するために、前年度までにinverse-PCR法を応用した次世代シーケンサー(NGS)により複数のHERV挿入変異候補部位を得た。そこで、NGSで得られた結果を別の手法で検証するために、HERVと隣接領域との境界配列をプライマーの一つに用いて長鎖PCRによる挿入HERV配列の増幅を試みた。6個所について非常に特異性の高いプライマーを設計することができたが、想定したサイズのPCR産物は得られなかった。NGS解析は非常に高感度であり、さらにNGSを施行する前の段階でinverse-PCRによる特異的増幅を行っていることから、通常のPCRでは検出されない感度で極少数の細胞内で起きた挿入変異を検出した可能性がある。最近、NGSにより高感度で検出された変異を別の手法で検証するためにdigital PCR(dPCR)のような高感度測定法が用いられてきている。実際、大腸ポリポーシスにおいてNGSで同定されたAPC遺伝子の一塩基変異(モザイク)をdPCRで検出することに成功した。今後はdPCRのような高感度測定法でHERV挿入変異を検証することができれば、少なくともこれまでに報告がなかった体細胞におけるHERV挿入変異について検証することが可能になるのではないかと考える。 一方で、体細胞における挿入変異を絞り込む過程で挿入多型についてもデータ解析を行っていたが、これまで知られていた挿入多型の特徴とは異なるものが複数新たに見つかった。このような挿入多型の新たな知見は、今後のHERV挿入変異の解析にも役立つと期待できる。
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