研究課題/領域番号 |
15K08402
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
水野 信哉 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10219644)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HGF / c-Met / DC細胞 / マクロファージ / IL-10 / HO-1 / IDO |
研究実績の概要 |
骨髄移植 (BMT) における移植片対宿主病 (GVHD) の発症をHGFが抑制する事が明らかとなっているが、その分子機構、特に免疫寛容に関わる機序はよくわかっていない現状である。そこで本年度はDC細胞およびマクロファージ株化細胞 (Raw264) を用いてHGFおよびその断片分子Xに対する免疫抑制機能を解析した。その結果、LPS刺激したマクロファージやRaw264細胞ではHGF受容体/c-Metの発現が高る一方、断片分子Xに対する受容体Yの発現も維持される事がわかった。まずHGFをこれらの細胞に添加すると、ヘムオキシゲナーゼ1 (HO-1) やインドールオキシゲナーゼ (IDO)といった免疫寛容を誘導する酵素の発現が高まる事が明らかとなった。さらにレギュラトリーT細胞の誘導に関わるサイトカイン(IL-10など)の発現が誘導される反面、IFN-gamma, IL-17といった免疫を高めるサイトカインの発現が抑制される事が明らかとなった。ついでHGF分子内断片-Xについても解析を行ったところ、IL-4によるIL-XX誘導系において著明な効果が観察された。すなわち、IL-4単独によってもIL-XX産生は惹起されうるが、この系に断片分子Xを添加するとIL-XX mRNAの発現が劇的に高まる事を見出した。この事象は受容体Yのノックダウンによって顕著に抑制される事から、c-Metに依存しない活性であることもわかった。さらにIL-4+断片Xの同時添加の系についてIL-XX転写開始に関わる転写因子Zのノックダウンを行なうと、IL-XX産生が損なわれる事も明らかとなった。これらの結果から、温存されたHGFはc-Metを介して免疫抑制効果を発揮する一方、分解されたHGF断片分子は別の受容体、異なるシグナル伝達系を利用し、免疫抑制性サイトカインを誘導している可能性が新たに浮上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者は過去20年にわたるHGF研究、細胞生物学研究、生化学研究の蓄積により解析系をほぼ確立している。以上の背景をもとに比較的順調に研究を進めつつある。
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今後の研究の推進方策 |
(1)In vitro解析系:免疫寛容に関わりの深いIDOやTDO, HO1といった酸素添加酵素(オキシゲナーゼ)に対するHGFの誘導機構についてシグナル伝達系や転写因子を中心に解析を進めてゆく予定である。 (2)In vivo解析系:BMTモデルに対するHGFの臓器保護効果、免疫寛容誘導効果について上記酵素の関わりを各種阻害剤を用いて解析してゆく。さらに阻害剤によって動く分子群の同定を行い、各オオキシゲナーゼの標的となる下流分子を含めた分子ネットワークの解析に着手したい。 (3)HGF断片分子Xの機能解析:免疫抑制や寛容誘導に対する機能をDC細胞やマクロファージの培養細胞系を用いて解析してゆく。とりわけ寛容系フェノタイプ(DC2樹状細胞またはM2マクロファージ)への分化誘導に関わる断片分子Xの機能についても検討を加える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前研究課題(No.23590458)の最終年度を1年延長したところ、本研究課題の初年度(2016年度)と重なった。両研究課題は免疫学領域であり、共通する実験試薬や機材なども多かった。その結果、2016年度(=初年度)の研究試薬を節約する事ができた(2017年度の予算執行率率は99.8%であった)。今後の研究推進ならびにその成果発表に備えて繰越額を継続している。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度に動物実験および培養細胞を用いた生化学的解析ならびに病理学的解析に用いる予定である。さらに研究成果の公表に関して、英文校閲料、投稿料や別刷り、学会出張などに適切に使用してゆく予定である。
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