研究課題/領域番号 |
15K08404
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
山崎 哲男 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 教授 (90330208)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 小胞体 / クリスタリン / CLN6 / リソゾーム病 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タンパク質凝集体難病の治療法を創出することである。切り口として細胞内オルガネラである小胞体を標的としている。本研究課題の提案は、「シャペロン分子αBクリスタリン(以降、クリスタリン)を小胞体膜上に強制的に発現すると、クリスタリン変異体タンパク質による凝集体形成・蓄積を予防できる」ことを示した研究代表者の実績(Biochem. Biophys. Res. Comm. 2014)に基づく。この結果は、1.クリスタリンの標的分子が小胞体膜上に存在しており、2.その分子実体を同定し、制御法を開発すれば、凝集体難病治療に応用可能であること、を意味している。そこで、平成27年度に小胞体局在型クリスタリンに特異的に結合する分子を精製し、複数の標的分子候補を同定した。平成28年度はその中でもCLN6と呼ばれる機能不知の小胞体膜貫通タンパク質を精力的に解析し、同分子が小胞体局在型クリスタリンのエフェクター分子として働くこと、加えてそれ自身がタンパク質凝集体形成を抑制することを明らかにした(論文投稿中)。CLN6はリソゾーム病に分類されるneuronal ceroid lipofuscinosis (NCL)の原因遺伝子でもある。本研究成果はCLN6の機能欠損が引き起こす凝集体形成がNCLの発症要因となる可能性を提示した。一方で、ABER2 (alphaB-crystallin Binder on the ER)と私たちが仮称する別の標的分子候補はCLN6とは逆に凝集体形成を促進した。CLN6およびABER2それぞれの機能発現領域の絞り込みをほぼ完了し、機能発現機序を分子レベルで解明するために、結合分子の探索を開始したところである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小胞体局在型クリスタリンの標的分子の単離・同定が滞りなく進行し、中でもCLN6およびABER2それぞれが異常タンパク質凝集体形成に抑制的・促進的に働くことを示すことができた。この点は当初の予定通りの展開である。それに加えて、両分子間の物理的結合を示唆する解析結果を得ている。この成果をふまえると、凝集体難病の発症メカニズムと治療法開発を目指す上では、両分子の機能発現機構の解析に一層注力する必要がある。特に凝集体難病の薬物治療を最終目標とする上では、内因性タンパク質であるCLN6並びにABER2を標的とする化合物スクリーニングが急務である。この点で当初の研究計画では重点的に解析予定であった小胞体局在型クリスタリンは人工的に改変したタンパク質であり、その優先度は必然的に下げることとなった。また、平成27年度には小胞体局在型クリスタリンが凝集体形成抑制能を発揮する対象がパーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症の発症と密接な相関を持つタンパク質をも含み、クリスタリン変異体タンパク質に限定されるわけではないことを示し、研究計画の一つである「凝集体難病全般にむけての汎用性ツール開発」に関しても糸口を既に掴んでいる。この結果に基づき、平成28年度は検討対象を小胞体局在型クリスタリンからCLN6およびABER2に変更し、両分子が凝集傾向の高い変異体タンパク質全般に制御能を発揮するのかを検討した。
|
今後の研究の推進方策 |
小胞体の微少環境を操作する方法論の確立に不可欠となるのが、関係する分子実体の同定である。これまでに小胞体局在型クリスタリンに結合する小胞体膜タンパク質を複数単離し、当該タンパク質が小胞体型クリスタリンと協働するのみならず、それ自身でもタンパク質凝集体形成をコントロールする能力を備えていることを明らかにしてきた。このように創薬標的として有望な候補タンパク質の同定に目処がたったので、これらのタンパク質が「細胞株のみならず個体でも同様に機能するのか?」について検討することが今後の研究の柱の一つになる。単離した分子全ての動物モデルを樹立することが理想的ではあるが、飼育スペース・コストの両面を考えると現実的ではない。そこで、CLN6・ABER2の機能発現様式の解明と並行して、両タンパク質以外の候補分子に関しても、タンパク質凝集体形成を左右する能力の有無を細胞株を用いて検討し、動物モデルでの解析にまで展開する候補分子を選別する。
|