研究実績の概要 |
本研究の目的は、タンパク質凝集体難病の治療戦略を創出することである。同病に分類される遺伝性筋肉難病クリスタリノパチーをモデル疾患とし、小胞体膜周囲の微小環境を制御対象に据えた治療法を開発する。本研究は「小胞体膜上にシャペロン分子クリスタリンを強制的に発現させると、タンパク質凝集体の形成・蓄積を阻害し得る」ことを世界に先駆けて見出した申請者の実績(Biochem Biophys Res Commun., 2014)を踏まえたものである。この結果は、1、小胞体膜上には小胞体繋留型クリスタリンの標的分子が存在すること、2、両者の相互作用が引き金になって、タンパク質凝集体の形成阻害を可能にする細胞内メカニズムが稼働すること、を意味する。そこで、当該小胞体膜分子を人為的に制御すれば、クリスタリノパチー症状の緩和、さらには同病の克服も可能になるのではないかと考え、本研究の提案に至った。研究期間内に小胞体繋留型クリスタリン結合タンパク質の単離に取り組み、その一つとして小胞体膜貫通タンパク質CLN6を同定した。過剰発現・ノックアウト実験を行い、小胞体繋留型クリスタリンが凝集体形成阻害能を発揮するためにはCLN6との相互作用が不可欠であることを明らかにするとともに、小胞体繋留型クリスタリン非存在下でもCLN6それ自身が抗凝集体活性を呈することを見出した(Biochem Biophys Res Commun., 2017)。また、細胞株レベルではあるものの、小胞体繋留型クリスタリンもしくはCLN6を過剰発現することで、TDP-43をはじめとする多彩な疾患関連タンパク質の凝集体形成を未然に防げることを示し(投稿中)、小胞体マニピュレーションの汎用性ならびに個体レベルでの応用を提唱するところとなった。
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