研究課題
これまでに、悪性度の高い腎淡明細胞癌(ccRCC)では高頻度に14q32.32-33領域が欠失していることを報告してきた。本年度はこの領域の遺伝子の発現と機能を解析して、責任遺伝子の同定を試みた。さらに同定した責任遺伝子の癌抑制遺伝子としての機能を明らかにすることによって、予後良好なccRCCが予後不良なccRCCに悪性転化するメカニズムを解明した。(1.責任遺伝子の同定) 14q32.32-33の欠失がある腎癌細胞株とない細胞株についてマイクロアレイを用いた発現プロファイルを比較することで、5個の候補遺伝子を抽出した。さらに、TCGAデータセットを用いて、これら5個のうちWDR20の発現低下が患者の予後と有意に相関することを見出した。(2.WDR20の機能解析) 14q32.32-33の欠失によってWDR20の発現が低下している癌細胞株にWDR20を導入すると、有意に増殖能が抑制され、アポトーシスが亢進した。さらに、導入したWDR20を除去すると増殖能は元のレベルまで低下した。(3.WDR20シグナルパスウェイの解明) WDR20を導入した細胞では、ERKおよびAKTのリン酸化が抑制され、それぞれの下流分子の発現動態にも影響を及ぼしていた。以上の結果から、腎癌細胞では、14q32.32-33の欠失に伴うWDR20の発現低下によって、ERKおよびAKTが活性化され、増殖能・生存能の亢進が誘導されて悪性化することが分かった。これらの知見をまとめた論文は、日本癌学会発行の英文誌Cancer Scienceに受理され、2016年4月号に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
当初の本年度の研究項目は以下の3点であった。1.最小共通欠失領域14q32.32-33領域上で、発現低下している遺伝子を抽出する2.抽出された遺伝子の機能(増殖、浸潤、遊走など)を解析する3.同定した新規癌抑制遺伝子のシグナルパスウェイを解明するこのうち1については、発現低下している5個の遺伝子を抽出することができ、さらにそのうち1個の遺伝子(WDR20)が患者の予後と有意に相関することを明らかにした。2については、WDR20の発現が低下している細胞にWDR20を遺伝子導入して機能解析を行った。その結果、WDR20の発現誘導は細胞増殖能およびアポトーシス抵抗性を亢進させることが分かった。浸潤能や遊走能には明らかな変化はなかった。3については、WDR20を遺伝子導入した細胞では、ERKおよびAKTのリン酸化(活性化)が抑制されることを見出した。以上、1-3すべての研究項目について遂行して、研究成果を発信することができた。
本年度の研究成果から、14q32.32-33の欠失に伴うWDR20の発現低下が腎癌の悪性化に関わることが明らかになった。今後の研究項目を以下に挙げる。1.本年度の結果を確認するために、14q32.32-33の欠失がなくWDR20を発現している腎癌細胞株についてその発現をノックダウンして、細胞の機能への影響を調べる。2.WDR20の生体内での機能を検証するために、免疫不全マウスを用いた腎癌細胞株同所移植モデルを構築する。WDR20を導入した細胞株および元の親株、あるいはWDR20をノックダウンした細胞株および元の親株をマウスの腎に移植して、原発腫瘍の増殖、周囲組織及び遠隔臓器への浸潤、移植マウスの悪液質の有無、生存期間等について比較検討する。3.WDR20の発現低下によって腎癌細胞ではどのようなシグナルパスウェイが活性化され細胞形質が悪性化するのかを詳細に検討する。WDR20を導入した細胞株および元の親株のトランスクリプトーム解析を行い、その結果をパスウェイ解析にかけて有意に変動するパスウェイを抽出する。そして抽出されたパスウェイの中から新規治療薬の標的となり得る分子を同定する。
計画通りに研究が進み、必要な物品も購入できた。当初の見積金額より、安く購入できたものもあったことによる差額であり、研究の遅れによって生じた残額ではない。
残額となった物品費については、細胞機能解析研究の消耗品費として使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件)
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