研究課題
これまでに私たちは、淡明細胞型腎細胞癌(ccRCC)の悪性化に14番染色体長腕(14q)欠失に伴うSAV1遺伝子の発現低下が重要であることを見出した。そこで本年度は腎特異的にSav1遺伝子が欠失したマウスを作製して腎尿細管上皮細胞におけるSav1の機能を検証した。1.Sav1ノックアウトマウスの作製Sav1のエキソン3をloxP配列ではさむようにデザインされたES細胞を入手してキメラマウスを作製し、野生型マウスと交配してSav1コンディショナルコックアウトマウスを得た。さらにこのマウスと、Cadhelin 16プロモーター下で腎尿細管特異的にCre-recombinaseを発現するトランスジェニックマウスと交配して目的のマウスを作製した。2.組織学的解析得られたマウスの外表所見、体重、腎重量、組織所見について経時的に観察した。腎特異的Sav1欠失マウスは野生型マウスに比べて、明らかな奇形や有意な体重および腎重量の変化は認めなかったが、組織学的に尿細管上皮細胞の増加や重層化、核の大型化を認めた。また、糸球体嚢胞や尿細管嚢胞の形成が目立った。さらに加齢とともに近医尿細管数の減少と間質の慢性炎症所見を認めた。以上の結果から、Sav1はネフロン構造の維持に重要な生理的機能を果たしていることが示された。また、欠失マウスの腎尿細管上皮の核が大型化して大小不同性もみられたことから、Sav1欠失は癌細胞の増殖だけではなく、高悪性度ccRCCの特徴である核の腫大・異型核に関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究課題は腎特異的Sav1ノックアウトマウスの作製と解析であり、具体的な実施項目は以下の3点である。1.ES細胞の入手とキメラマウスの作出2.腎特異的Sav1ノックアウトマウスの作製3.腎特異的Sav1ノックアウトマウスのフェノタイプの解析このうち1および2については前々年度から着手していたもので、 European Conditional Mouse Mutagenesis (EUCOMM)からES細胞を入手し、NPO法人発生工学研究会との共同研究として目的のマウスを作製することができた。3については解析可能なマウスの確保に時間がかかったが、経時的な観察と組織学的解析を遂行することで多くの興味深い知見を得ることができ、研究成果を発信することができた。
私はこれまでに、高悪性度の腎細胞癌では14番染色体長腕が欠失していることを見出した。さらに、欠失に伴い発現低下する遺伝子群を抽出して、その中からSAV1とWDR20に注目して解析を進めてきた。今後は、SAV1やWDR20以外の候補遺伝子について機能解析を行い新たな責任遺伝子の同定を目指す。具体的な研究項目は以下の2点である。1.候補遺伝子の抽出これまでにリストアップした遺伝子群の中から増殖や運動性、生存能などの機能との関与が報告されている遺伝子を選択する。それらの遺伝子について腎癌細胞株にウイルスベクターを用いて発現回復させ細胞機能や形態の変化をみる。さらに免疫不全マウスを用いた同所移植モデルを構築して、生体内でのがん抑制遺伝子としての機能を確認する。2.シグナルパスウェイの同定と治療応用抽出した新規がん抑制遺伝子の欠失によって腎癌細胞で活性化されているシグナルパスウェイを同定する。そしてパスウェイを構成する分子の中から治療標的となり得る分子を抽出して、その有望性を検討する。
当初の見積金額よりも安く購入できたことと、研究が順調に遂行できたため計画していた実験の一部が省略できたことによって差額が生じた。
次年度の細胞機能解析研究に必要な消耗品費として使用する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
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