研究実績の概要 |
私はこれまで、高悪性度の腎細胞癌では14番染色体の長腕 (14q)が高頻度に欠失していることを見出した。本研究課題では、まず14qの欠失に伴って発現低下する遺伝子群を明らかにした。次に、その中からWDR20とSAV1を抽出し、それぞれの遺伝子の発現低下が腎細胞癌の悪性化にどのように関与しているのかを検討した。 1. WDR20遺伝子の機能解析とシグナルパスウェイの解明 14qの欠失によりWDR20の発現が低下している腎癌細胞株にWDR20を導入すると、増殖能が抑制され、アポトーシスが誘導された。このときERKおよびAKTの活性化レベルが抑制されていたことから、腎細胞癌ではWDR20の発現低下により、ERKおよびAKTが活性化され、増殖能や生存能が亢進して悪性化することが分かった。本研究内容は、Cancer Science (2016, 107, 417-423)に掲載された。現在、WDR20の発現低下に伴って変動するシグナルパスウェイの中から治療標的となり得る分子を探索しているところである。 2. Sav1ノックアウトマウスの作製とフェノタイプの観察 腎尿細管特異的Sav1ノックアウトマウスを作製した。野生型マウスに比べ、外表奇形や体重および腎重量の変化は見られなかった。組織学的解析により、尿細管上皮細胞の増加や重層化、核の大型化を認めた。また、子宮体嚢胞や尿細管嚢胞の形成が目立った。さらに加齢とともに近医尿細管数の減少と間質の慢性炎症所見を認めた。以上の結果から、Sav1はネフロン構造の維持に重要な生理的機能を果たしていることが示された。また、尿細管細胞の核の大型化と大小不同性を認めたことから、Sav1は癌細胞の増殖に加えて、高悪性度腎癌の特徴である核の腫大や異型性に関与していることが示唆された。本研究内容は、Journal of Pathology (2016, 239, 97-108)に掲載された。引き続き腫瘍発生の有無等の検索を進めている。
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