研究課題/領域番号 |
15K08407
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
田中 秀央 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60236619)
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研究分担者 |
山岡 禎久 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80405274) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 心房細動 / 横行小管 / カルシウム / 膜電位 / 伝導障害 / 蛍光顕微鏡 / 摘出灌流心 |
研究実績の概要 |
心筋細胞膜の陥入構造である横行小管(以下、T管)は、電気的興奮に伴って心筋が均一に収縮する上で必要不可欠な構造である。本研究では心房筋細胞におけるT管の発現異常が心房細動(以下、AF)の発生に重要な役割を演じるとの仮説を立て、これを検証するため以下の2点につきラットの摘出灌流心を用いて実験しAFの発生におけるT管の病理学的意義の解明を試みた。 1)T管の発現が低下した心房組織では、T管が密に発現した心室組織に比べてカルシウムイオン(以下Ca)動態が不均一化し易く、伝導障害が生じ易いか否か。 2)AFの発生起源ではCa動態が不均一化し易く、伝導障害が生じ易いか。 その結果、1)についてはラットの摘出灌流心を膜電位感受性色素di-4-ANEPPSを負荷し細胞膜ならびにT管の微細な構築を共焦点レーザ顕微鏡で観察、これを心室筋細胞と比較したところ、心房においてT管が有意に発現低下していることを見出した。また膜電位感受性蛍光画像を用いて右心房からの電気的刺激により心房内伝導様式を検討したところ、高頻度刺激により左心房の天蓋部に有意な伝導速度の低下を認めた。Ca蛍光指示薬であるFluo4負荷し心房筋のCa動態を細胞レベルで観察したところ、低頻度の興奮では個々の心房筋細胞が興奮に伴って時間的・空間的に均一な一過性のCa濃度上昇(Caトランジェント)を示したのに対し、高頻度駆動下には、しばしば興奮に伴って細胞内で高Ca濃度を示す領域が波状に伝播するCa動態の不均一化が観察された。しかし不均一なCa動態を示す組織における伝導速度の評価については、Ca蛍光と膜蛍光とが重なりが生じ検証不可能であった。 2)については、伝導障害を示す左心房天蓋部に着目したCa動態とT管の発現様式との関連を調べたが、現有の高速共焦点顕微鏡では膜感受性色素の蛍光がCa蛍光にその強度が低く、評価が困難であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の通り、T管の発現が低下した心房組織では、Ca動態が不均一化し易いことが明らかになった。しかし不均一なCa動態を示す組織における伝導速度の評価については、Ca蛍光と膜蛍光とが重なりが生じ検証不可能であった。より長波長の蛍光を有する膜感受性色素を用いた伝導様式の蛍光観察が必要である。AFの発生起源については伝導障害を生じやすい左心房天蓋部からAFが発生しやすいことが明らかになったが、同部のCa動態とT管の発現様式との関連については、現有の高速共焦点顕微鏡観察では膜感受性色素の蛍光高度がCaの蛍光強度に比して低いため、評価が困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度内にデータ取得・解析が出来なかった2点の課題については、光学系・実験手法を変更することにより検討を行う。不均一なCa動態を示す領域、とくに左心房天蓋部におけるCa動態については実体蛍光顕微鏡を用いた膜電位とCa動態の巨視的な高速蛍光観察により解析する。これによりCa動態の細胞レベルの不均一性の観察はできないが、交代性CaなどCa動態の不均一性が得られるものと予想される。左心房天蓋部のT管の発現様式とCa動態の同時観察については、より高出力のレーザ光源を用いて同時観察を試みるとともに、通常の共焦点顕微鏡を用いてCa動態とは別にT管の詳細な共焦点蛍光観察を行うことにより検証する。以上の結果が得られれば、僧房弁閉鎖不全など左心房の容量負荷モデル心を作成し、左心房のリモデリングに伴うT管の発現異常、Ca動態異常、興奮伝導異常を統合的に解析し、病的心のAF発生におけるT管の役割について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究に費やす時間が十分には確保できず、予定していた消耗品等購入に見合う実験ができなかったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
薬品と実験動物の購入に充てる予定である。
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